東北大学は,医療被曝測定用マルチセンサ型リアルタイム線量計の開発に成功した(ニュースリリース)。従来のものとは違い有害あるいはX線画像の邪魔になるようなセンサやケーブルを使用せず,さらにマルチセンサ型にすることで患者最大皮膚線量を確実にモニターできることが期待される。
IVR(Interventional Radiology)は,X線透視撮影下で体内にカテーテルを入れる治療法。高齢者や状態の悪い進行ガンなどのガン治療や,心筋梗塞・狭心症治療(経皮的冠動脈形成術)などに有効だが,症例によってX線透視撮影時間が非常に長くなる傾向にあるため,患者の被曝線量増加による放射線障害例が報告されており,その防止が大きな課題となっている。
IVR時の患者放射線障害回避の為には,急性放射線障害の閾線量を超過する前にその皮膚面へのX線照射を中断する必要があり,正確な患者被曝線量を「リアルタイム」に測定することが望まれるが,この目的にかなうリアルタイム線量計は現存しない。
リアルタイム線量計としては1998年に世界的に普及した装置があったが,センサがひとつしかない(シングルセンサ)上に,センサとして毒性が極めて強いカドミウム蛍光体を使用していたので,現在は製造が中止されている。
他にもシリコン半導体検出器使用したリアルタイム計測器があるが,検出部と信号ケーブルがX線画像に明瞭に写り込むため診断等の邪魔になり,現在IVRやX線検査では使用されていない。
今回研究グループは,センサに用いる蛍光体としてカドミウムに代わる物質を種々探索した結果,酸硫化イットリウム系の蛍光体が毒性も無くX線に対して高感度であり劣化もないこと等を見出し,酸硫化イットリウム系の蛍光体センサと光ファイバケーブル,フォトダイオード等を用いたリアルタイム患者被曝線量計の開発を試みた。
これにより,透視画像へのセンサケーブルの映り込みを大幅に減少させ,高感度なリアルタイム被曝線量測定が可能となった。さらにマルチセンサ型のX線検出部をもつリアルタイム線量計を試作することで,シングルセンサでは困難であった正確な最大被曝線量測定が期待できる。開発された線量計は最大4センサ同時に被曝線量測定を行なうことが可能。
開発したリアルタイム線量計は,早ければ年内中に製品化される見込みだとしている。
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