京大ら,生体タンパク質反応の鍵となる「揺らぎ」検出にレーザを用いて成功

京都大学,大阪府立大学,東京大学らの共同研究グループは,タンパク質の化学反応の中に現れる分子の揺らぎを実時間で観測することに成功した(ニュースリリース)。

生命活動を支えているタンパク質の化学反応がどのように起こっているかを知ることは,生命現象を分子的に理解するために必須であると同時に,医療や製薬の分野でも重要となる。例えば,ある病気があるタンパク質の働きで起こるときには,そのタンパク質の働きを抑えるような薬があればよいことになる。

このようなタンパク質の働きを理解するために,従来は「鍵と鍵穴モデル」というモデルが使われていたが,近年そうした形からの議論だけでは不十分な場合が見出されてきた。

そうした点を克服する概念が,「反応するためには構造がふらふらとしていることが必要である」という「揺らぎ」のモデル。実際,これまでもタンパク質の安定性を下げると反応しやすくなるなどの知見が得られていたが,実際に反応している最中の「揺らぎ」を観測する手法がなく,このモデルの真の検証にはなっていなかった。

そこで研究グループは,反応している最中の「揺らぎ」を時々刻々と追跡する手法を開発し,10ナノ秒ほどのパルスレーザを用いることで,この熱力学量の短い時間での時間発展を直接観測することに世界で初めて成功した。この観測手法を開発することによって,初めて反応とともに変わる圧縮率,つまりは「揺らぎ」の追跡が可能となった。

さらに,この手法を用いることで,タンパク質反応の途中に現れる中間体で「揺らぎ」がどのように変わるかを観測することに挑戦した。その結果,この手法で青色光を感知するタンパク質の反応中間体の「揺らぎ」を求めることに成功し,中間体では「揺らぎ」が実際に大きくなっていることを示すことができた。

さらに,光強度を制御することによって,「揺らぎ」を小さくすると反応が起こらなくなることを見い出した。すなわち,この結果は中間体で発生する「揺らぎ」が反応を引き起こす駆動力であることを示唆しており,「揺らぎ」が実際に反応過程に関与していることを直接的に示すことに世界で初めて成功したもの。

研究グループでは,「揺らぎ」を制御することで,タンパク質の働きをなくしたり,反応途中で「揺らぎ」が増大しているというのが普遍的であるならば,「揺らぎ」が大きいときにのみ相互作用するような薬剤の開発が可能になると期待している。

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