産総研ら,消費電力が従来の1/1000以下となる大容量ネットワーク技術を開発

産業技術総合研究所(産総研)らは,情報の大きさに対応して階層的に光パス(経路)を切り替える技術,光パスと配信サーバの統合的な資源管理技術を開発,従来の電子ルータを使ったネットワークに比べて1000分の1以下の低消費電力で超高精細映像などの情報を扱える新しい光ネットワーク技術を開発した(ニュースリリース)。

開発したのは,産総研を中心に,日本電信電話,富士通研究所,古河電気工業,トリマティス,日本電気,富士通,フジクラ,アルネアラボラトリ,住友電気工業,北日本電線の10社が参加した「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」プロジェクト。

現在のネットワークでは電子的なLSIを用いてパケット処理するルータが使用されている。この方式はメール,ウエブ閲覧などの小さい情報(小粒度の情報)を扱うのに好適であるが,情報量の増大に比例して消費電力が増大する。このため,今後の高精細映像など大きな情報量(大粒度)のトラフィックの需要に対して,ルータの消費電力増大が大きな制限要因となる。

そこで,産総研は電子的なルータを介しない,光スイッチによる回線交換型の新しい「ダイナミック光パスネットワーク」を提案し,2010年には公開実験で低消費電力性を実証した。

今回,情報の粒度に応じてパス(経路)を切り替えるスイッチを開発して,これらを階層的に配置することで,小粒度から大粒度までの情報を扱うことを可能にした。また,これにより,多くの利用者を収容でき,超低消費電力で,高精細映像などの大きな情報を扱うことのできるネットワークが実現できることを実証する。

デバイスから,システム機器,ネットワーク資源管理までの技術開発により,ユーザとユーザ,ユーザとデータセンター間などを光スイッチでつなぐ新しい「ダイナミック光パスネットワーク」技術を開発した。今回開発した技術は以下の通り。

a. 新しいネットワーク・アーキテクチャ
b.ネットワーク利用技術であるネットワーク・アプリケーション・インターフェース技術
c.ネットワークのパスを制御し切り替えるダイナミック光ノード技術
d.伝送路を最適に制御する光パス・コンディショニング技術
e.大規模光パス切り替えスイッチである光パス・プロセッサー技術

研究具グループによれば,高精細映像などの大容量の情報のやり取りにこのネットワーク技術を使うと,今後,トラフィックが数千倍以上に増えたとしても,現在と同程度以下の消費電力に抑えることができるという。

今回,実証実験で使用するネットワークは8つのノードを用いているが,わずか6kW程度の電力消費で約90 Tbps(現在の国内の総トラッフィクの36倍)の情報を扱うことができる。また,種々の大きさの情報(多粒度の情報)に対応できる技術を開発したことで,全国をカバーする数千万加入のネットワークへの拡張が可能になったとしている。

研究グループは,2014年10月8~9日に茨城県つくば市の産総研つくばセンターにおいて,NHKと連携した8Kスーパーハイビジョンの配信を含む公開実証実験を行ない,開発した新しい光ネットワーク技術の超低消費電力性を実証する。

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