産総研,芳香族ウレタンを高収率で得る新しい反応プロセスを開発

産業技術総合研究所(産総研)は二酸化炭素(CO2)とアミン,スズアルコキシド化合物とを反応させて,芳香族ウレタンを高収率で得る新しい反応プロセスを開発した(ニュースリリース)。芳香族ウレタンは,現在医農薬品などに用いられる化学物質であるが,ポリウレタンの原料として非常に有望。

現在,ポリウレタンの製造には,猛毒で腐食性の強いホスゲンが原料として用いられている。また,製造過程で多量の廃棄物が副生するため,より環境に調和した製造プロセスへの転換が強く望まれていた。

産総研では,安価で豊富に存在するCO2とアミン,アルコールを原料に用いることで,理論上廃棄物が全く生成しない理想的な環境調和型ウレタン合成法の開発に取り組んできた。しかし,これまでに開発した技術では合成できるウレタンの種類が限られ,ポリウレタン原料の元になる芳香族ウレタンを合成することはできなかった。

今回開発したCO2を原料とする一段階でのウレタン合成法では,アルコールの代わりにスズアルコキシド化合物を用いた。例えば,CO2,アニリン,アニリンと同量のジブチルスズジメトキシドを,150 ℃で20分間反応させると,対応する芳香族ウレタンが41%の収率で得られた。

また,アニリンに対して5倍量のジブチルスズジメトキシドを用いた場合,収率は82%に達した。これにより,触媒を使わないでCO2と芳香族アミンから高収率で芳香族ウレタンを合成できた。なお,このときの副生成物の収率はわずか1%であった。

今回開発した合成法では,スズアルコキシド化合物をアミンと同量以上用いるが,反応後にスズ残留物を回収し,水を取り除きながらアルコールと反応させるとスズアルコキシド化合物が再生し,次の反応に再使用できる。反応プロセス全体で消費されるのはCO2と芳香族アミン,アルコールだけであり,しかも化学式上の副生成物は水だけ。また,この方法では,原料などに塩素を一切使用しない。

このように今回開発した合成法は,再使用可能なスズアルコキシド化合物を用いて,プロセス全体としてはCO2,芳香族アミン,アルコールから,ポリウレタン原料の元となる芳香族ウレタンを,効率的に合成できる環境調和性,経済性に優れた反応プロセスであり,ポリウレタン製造プロセスの革新につながるものと期待される。

研究グループは今後,反応条件を最適化することで,反応のさらなる効率化を図ると共に,さまざまなアミンやアルコールへの適用性について検証する。さらに,スズアルコキシド化合物の再生条件の最適化や,スケールアップの検討も進め,早期の実用化を目指すとしている。

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