岡山大学病の研究グループは,ヒト血液中より“がん”細胞の増殖を抑制するタンパクを発見した(ニュースリリース)。このタンパクは,リボソームタンパクL29(RPL29)を認識する抗体。
ヒトの体内では,毎日数千個の“がん”細胞が生じていると言われているが,日本人が生涯で“がん”に罹患する確率は約50%と報告されている。これは,生体内に存在する腫瘍免疫システムが“がん”細胞を排除するためと考えられている。
しかし,生体内の腫瘍免疫システムが如何様にして“がん”細胞を排除しているかについては解明されていない。生体内で機能している腫瘍免疫システムを解明することは,より安全で効果的な“がん”治療の開発につながると考えられる。
研究グループは,培養癌細胞を用いた研究により,ヒト血液中に存在する抗RPL29抗体に膵癌や肺癌,乳癌,肝癌,大腸癌,前立腺癌の細胞増殖を抑制する効果のあることを発見した。また,膵癌患者105例について検討した結果,血液中に抗RPL29抗体を多く有している患者では,同じ病状で同じ治療を受けた場合でも明らかに生存期間が長いことが解った。
これらの結果より,抗RPL29抗体は,生体内の腫瘍免疫システムを構成する物質の一つと考えられる。
研究グループは,血液中抗RPL29抗体を測定することにより生体内で機能している腫瘍免疫システムの状態を評価することで,個々の“がん”患者に適した治療方針を決定することが可能になるとしている。また,抗RPL29抗体自体に “がん”細胞の増殖を抑制したり“がん”細胞を細胞死(アポトーシス)に誘導したりする効果のあることから,抗RPL29抗体は安全性の高い新規の抗腫瘍薬としても期待されるという。
現在,研究グループでは,抗体医薬やがんワクチンの開発を目指して研究を進めている。
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