JAXA,木星の磁場領域の電子の動きを惑星分光観測衛星で解明

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,木星の強力な磁場に取り囲まれた領域(木星内部磁気圏)において,高温の電子が木星側に向かって流れているという証拠を,惑星分光観測衛星「ひさき」の観測によって世界で初めて捉えた(ニュースリリース)。これは従来の学説を裏付ける重要な証拠。

木星は地球の1000倍以上もの強い磁場を持つ。この磁力線は木星周辺の宇宙空間を満たし,木星磁気圏を形作っている。その木星磁気圏は,太陽系における最大の粒子加速器として知られている。実際,木星本体に近い内部磁気圏には,放射線帯と呼ばれる高エネルギー電子が詰まった領域がある。

しかし,この領域での電子加速のメカニズムは統一的に理解されておらず,粒子がどのようにして高いエネルギーを獲得しているのか,太陽系プラズマ物理における論争が続いていた。

今回「ひさき」を用いた観測では,内部磁気圏に存在する「イオプラズマトーラス」をスクリーンとして利用した。木星の衛星のひとつであるイオには活火山があり,この火山ガスは宇宙空間でイオン化して木星の磁場に捉えられ,イオの軌道に沿ってドーナツ状に分布する(「イオプラズマトーラス」)。

このトーラスを構成するイオン(硫黄,酸素等)は,周囲の高温電子との衝突励起によって複数の輝線で発光する。逆に言えば,これらの輝線の様子を調べることで,励起源である高温電子の温度や密度を知ることができる。この解析手法はスペクトル診断と呼ばれ,遠隔観測から大局的な電子温度や密度を導出する画期的な方法。

イオプラズマトーラスが発する輝線の大部分は,極端紫外(EUV)と呼ばれる波長領域にある。「ひさき」は,EUV波長域の観測に関して,高波長・空間分解能,高検出効率を実現し,さらに惑星専用の宇宙望遠鏡として継続的に惑星観測を続けられるという点で前例のない特長を有し,イオプラズマトーラスに関して,これまでにない高精度なスペクトル診断を可能にした。

今回の研究では,昨年11月に「ひさき」が取得した木星磁気圏のEUVデータに対してスペクトル診断を適用した。その結果,イオプラズマトーラスには,外部磁気圏起源の高温電子が数%の割合で存在することが明らかになった。

さらに,その空間分布から磁気圏の外側から内側に向けて高効率な電子の輸送が起きていることが分かった。研究グループは,これは,木星放射線帯の形成・維持に必要な高温電子輸送の証拠を世界で初めて捉えたことを示す証拠だとしている。

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