産業技術総合研究所(産総研)は,矢崎総業と共同で,銅板にスズメッキを施して製品化されている自動車ワイヤハーネス用コネクタの小型・軽量化のための評価装置を開発した(ニュースリリース)。
自動車用のコネクタ端子にはスズメッキした銅板が用いられているが,スズ表面にはスズ酸化膜が形成される。スズ酸化膜は絶縁体であり,その厚さは10nm程度と非常に薄いことから,スズ酸化膜がコネクターの金属接触や電気抵抗にどのような影響を及ぼしているかを詳細に把握することはこれまで非常に困難だった。
コネクタを小型化するため,スズ酸化膜表面の金属接触と接触電気抵抗との関連を詳細に解析する必要性が増していて,そのための新しい評価装置の実現が強く求められていた。
今回開発した装置は,走査型電子顕微鏡の試料室内にナノメートルスケールで押し込み長さを調整できる高精度化したマニピュレータを組み込んであり,接触荷重と精密な接触電気抵抗の計測ができる。
自動車のコネクタのモデル試料として,平坦なスズ基板上に酸化スズを成膜した試料(オスコネクタのモデル)と,先端曲率半径を数µm程度に加工したタングステンプローブ(メスコネクタのモデル)を用い,走査型電子顕微鏡中で観察しながら,タングステンプローブの押し込み深さ,接触荷重,接触電気抵抗を同時計測した。
その結果,表面の酸化スズ膜が割れて,その割れ目に下地のスズが入り込んでいることが分かった。さらに,この試料を集束イオンビーム(FIB)装置により圧痕の断面が露出するように加工して走査型電子顕微鏡で観測したところ,酸化スズ膜が割れた部分にスズが入り込んでいる様子がより明瞭に分かった。
さらに,酸化スズ膜が割れた部分でも,スズが入り込んでいないもの,途中まで入り込んでいるもの,表面まで入り込んでいるものが混在していた。
これにより,接触電気抵抗が大きく減少した圧痕には,酸化スズの割れとスズの入り込みが確認でき,それが電気接点の導通に大きく寄与していることが分かった。
今後,産総研は,開発した装置を用いて微小領域での構造と接触電気抵抗との相関や,導電に要する接触荷重などに関するデータを取得するとともに,開発した装置が電気接点技術分野に必須の評価装置となることを目指す。矢崎総業は,小型軽量の自動車ワイヤーハネス用コネクタの製品化を目指す。
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