理化学研究所(理研)と東京大学は,巨大ブラックホールへのガスの流入量が少ない時には,ガスの重力エネルギーを放射に変換する機構である「AGNエンジン」の効率が悪く,放射量(エンジン出力)の変動が穏やかなのに対し,流入量がある一定値を超えると,激しく出力が変動する効率のよい別系統のエンジンが働き始めることを発見した(ニュースリリース)。
ほぼ全ての銀河の中心には,太陽の10万~10億倍の質量を持つ巨大ブラックホールが1個ずつ存在する。そのうち,激しくガスを吸い込むものは「活動銀河核(AGN)」と呼ばれ,銀河に属する1千億個もの星の総和を上回るエネルギー量の放射(主にX線や可視光)を出す。
これはガスの重力エネルギーを放射に変換する機構が働くためと考えられており,その機構を「AGNエンジン」と呼んでいる。AGNの進化過程や周囲に与える影響を知るため,これまでにAGNから放射されるX線などの観測データを用いて,AGNエンジンの動作が盛んに研究されてきた。しかし,未だに全貌は解明されていない。
研究グループは,X線天文衛星「すざく」が観測した「NGC 3227」というAGNの高品質X線データについて,X線の「放射量」と「個々のX線光子が持つエネルギー」の変動に着目して解析した。
その結果,巨大ブラックホールへのガスの流入量が少ない時には,放射量が小さくエネルギーが高めのX線で構成される成分が緩やかに変動する一方,流入量がある境界を超えると,エネルギーが低めのX線で構成される別の成分が現れ,この成分によって放射量が増大するとともに激しく変動し始めることが分かった。
AGNエンジンの中に異なる働きを担う2つの部分が存在し,吸い込まれるガスの量が少ない時にはそのうちの片側だけ,ガスの量が増えてくると両方が働き出すという,AGNエンジンの新しい機能や構造が示唆された。
研究グループは今後,日本が2015年度に打ち上げる予定の次期X線天文衛星「ASTRO-H」による観測から,AGNエンジンの機能や構造がより詳細に分かると期待している。
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