名古屋大学の研究チームは,長寿遺伝子産物「サーチュイン」として知られる脱アセチル化酵素SIRT1の働きを脳で高めることにより,神経難病 ALS(筋萎縮性側索硬化症)モデルマウスの延命効果をもたらすことを明らかにした(ニュースリリース)。
ALS は,大脳から脊髄を経由して筋肉に指令を出す運動ニューロン(神経細胞)が徐々に死に至る神経難病。認知機能や人格が保たれたまま,全身の筋肉の麻痺が進行し,多くは発症から2−5年以内に呼吸筋の麻痺により人工呼吸器なしには生存できなくなる。
特定の異常タンパク質が蓄積することで,運動神経細胞が死に至ることが知られているが,大多数は原因不明であり,原因や病態の解明と治療法の開発が強く求められている。
研究チームは脳・脊髄でSIRT1の量を通常の3倍程度に増やすように遺伝子操作したSIRT1マウスを作成し,ALSモデルマウスと交配して発症時期や生存期間への効果を検討した。
その結果,SIRT1を増量させたALSモデルマウスでは,発症後の進行が遅れ,生存期間が延長した。
作用機序を探索するため,脊髄に蓄積する異常タンパク質や,その処理に関わるタンパク質を解析したところ,SIRT1が熱ショックタンパク質HSP70iを増加させ,遺伝性ALSの原因となる変異型SOD1タンパク質の分解を促すことがわかった。
SIRT1の働きを活性化するといわれるレスベラトロールは赤ワインなどに含まれる天然化合物だが,研究チームは,SIRT1活性化効果の高い化合物が開発できれば,ALSや類縁の神経難病において異常タンパク質の蓄積を抑える治療薬となる可能性が期待されるとしている。
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