ケンブリッジ大学,ヒト多能性幹細胞の初期胚に近い状態へのリセットに成功

科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業において,ケンブリッジ大学の研究グループは,既存のヒト多能性幹細胞に2つの遺伝子を一時的に発現させることで,より発生初期のナイーブ型ヒト多能性幹細胞の作製に成功した(ニュースリリース)。

多能性幹細胞は人体を構成するあらゆる細胞や組織になる能力を持つと考えられている。多能性幹細胞は「ナイーブ型」と「プライム型」に分類されており,「ナイーブ型」の方がより未分化な状態であることが知られている。また,「ナイーブ型」のマウス多能性幹細胞を特殊な条件下で培養することで,基底状態と呼ばれる未分化で安定した状態で維持することができる。

しかし,ヒトから作製した場合は「プライム型」になることが分かっており,ヒト多能性幹細胞を基底状態で安定して維持することはできなかった。

研究グループは,既存のヒト多能性幹細胞にNANOGとKLF2の2つの遺伝子を発現させ,細胞を制御する遺伝子ネットワークを変化させることによって,基底状態にあるヒト多能性幹細胞である“リセット細胞”を作製した。

ヒト多能性幹細胞にこれらの遺伝子を一時的に発現させるのみで,リセット細胞として維持することができるようになる。また,ほかの多能性幹細胞と同様にリセット細胞は,安定に自己複製すると同時に,神経細胞や心筋細胞といったほかの細胞へと分化することも確認できた。

今回研究成果から,マウスの多能性幹細胞が基底状態を保つことができるように,ヒト多能性幹細胞も基底状態として維持することが可能であることが明らかになった。研究グループは,リセット細胞は,ヒトの初期発生の生命科学を解く手がかりになるかもしれないとしている。また,より発生初期に近いヒト多能性幹細胞という特徴から,いまだ作製することができていない霊長類キメラ動物作製や,これまでの技術では困難であった細胞へ効率よく分化させる技術の開発など,再生医療研究への応用が期待されるとしている。

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