名古屋大学,大阪大学の共同研究グループは,細菌のべん毛モーターが活性化するしくみを,立体構造と機能を調べることで明らかにした(ニュースリリース)。
今回の研究の対象であるビブリオ菌のモーターは,ナトリウムイオンを使って毎秒1,700回転(毎分約10万回転)というジェットエンジンを遥かに超える超高速回転をしている。また,瞬時に回転方向を切り替えることができ,100%に近い効率でエネルギー変換することが知られており,現在の技術では人工的に実現できない性能を持つ。
超高速回転を行なうビブリオ菌のべん毛モーター固定子は,PomA と PomB という二つの細胞膜に埋まったタンパク質から成る複合体として存在する。研究グループは固定子の中でも細胞壁への固定に関係する部分(PomB タンパク質のペリプラスム側領域:PomBC)に着目し,大型放射光施設 SPring-8 で収集した X 線回折データを用いて,その分子構造を解析した。
PomBC の構造は意外にもコンパクトで,固定子が細胞壁に固定されて機能するには,PomBC のアミノ末端側領域で分子が大きく伸び上がるような構造変化が起こるのではないかと予想された。そこで,構造変化が予測される領域にシステイン残基を介したジスルフィド架橋を導入したところ,ビブリオ菌の運動能が架橋の形成と切断に応じて可逆的に阻害されることがわかった。
また,この架橋によって,固定子のモーターへの組み込みや,イオン透過能は変化しないことがわかった。このことから,モーターの活性化は以下のように起こると考えられる。1)固定子がモーターに組み込まれ,2)固定子のイオン透過能が活性し,3)細胞壁へ結合してしっかり固定される。
導入したジスルフィド架橋は細胞壁への結合の際に生じる構造変化を阻害していると考えられる。さらにPomBC の構造変化は可逆的なので,分子が伸び縮みするように変化しているのではないかと考えられるという。
研究グループは,このモーターから得た知見をもとに,自然に優しいイオンのエネルギーで駆動する超微小な人工ナノマシンを作成すれば,医療など様々な分野で応用が期待できるほか,病原菌のべん毛モーター固定子に作用する薬剤を開発すれば,菌の運動性を失わせることができ,感染の阻止が期待できるとしている。
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