電通大ら,ID情報を秘匿したまま認証できるパッシブ型RFIDタグチップを試作

電気通信大学(電通大),日立製作所,サイバー創研は,ID情報を秘匿したまま認証を行なうことで,プライバシーの侵害リスクを低減するUHF帯パッシブ型RFIDタグチップの試作に成功した(ニュースリリース)。

従来のID秘匿認証(OMHSO)プロトコルは,タグチップ内で複雑な処理を実行するため,小型化および消費電力を抑えることが困難だった。今回試作したRFIDタグチップは,アナログ信号とデジタル信号の処理回路を1つの回路に集積することで,回路規模が約10 kGE,消費電力は約140 μWの小型化および省エネを実現した。

この研究開発は,情報通信研究機構(NICT)の委託研究「軽量暗号プロトコルの省リソースデバイスに対する実装効率向上の研究開発」により実施したもの。電通大がRFIDタグ全体の設計,日立がRFIDタグに適した暗号技術の選定と実装,サイバー創研がRFIDタグの電力評価を担当した。

近年、RFIDタグやセンサで収集された人や物の状態に関する情報(フィジカル情報)と,クラウドコンピュータ上に蓄積されるさまざまな情報(サイバー情報)を組み合わせて快適なサービスを提供するサイバーフィジカルシステムが注目されている一方で,RFIDタグはカードリーダなどで容易に読み取ることができるため,そのID情報を追跡されると個人のプライバシーを侵害されるリスクがある。

NICTと電通大の研究グループでは,ハッシュチェーン(データに対して暗号学的ハッシュ関数を繰り返し適用する方法)を用いて,RFIDタグが発信するID値を毎回異なる値にすることで,ID値の追跡を困難にするID秘匿認証(OMHSO)プロトコルを開発してきた。この方式は高い安全性を持つが,RFIDタグチップ内で複雑な処理を実行するため,小型化および消費電力を抑えることが課題だった。

今回,アナログ信号処理回路とデジタル信号処理回路を1つの回路に集積することで,ID情報を秘匿したまま認証を行なうために必要なデジタル信号を処理する部分の回路規模の小型化と電力の効率化を図り,新電波法の特定小電力無線局に対応したUHF帯(920 MHz帯)での動作確認に成功した。

これにより,ID値が固定である従来のRFIDタグを用いたシステムと比べて,よりプライバシー性の高いシステムの実現が期待されるという。研究グループは今後,この技術を活用し,フィジカル情報の安全な収集技術を確立して,安心できるサイバーフィジカルシステムの構築に貢献したいとしている。

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