理化学研究所(理研)は,多金属のチタンヒドリド化合物を用いて,非常に安定なベンゼンの「炭素-炭素結合」を室温で切断することに成功した(ニュースリリース)。従来困難とされていた,芳香族化合物の炭素-炭素結合の切断を使った新しい物質変換反応の開発への寄与が期待できる。
ベンゼン環を含んだ芳香族化合物は,石油やバイオマスなどの天然資源に豊富に含まれている。これらの芳香族化合物の炭素-炭素結合の切断は,石油などの天然資源からガソリンや基礎化学品などを作る際に極めて重要な反応。しかし,ベンゼン環は非常に安定で,その炭素-炭素結合を切断するには固体酸触媒を使って500°C程度の高温で行う必要があり,多くのエネルギーを消費する。また反応プロセスは複雑で,目的外の化合物も複数生成する。
一方,生態系の中には温和な条件でベンゼン環の炭素-炭素結合を切断する微生物も知られているが,そのメカニズムについて不明なことが多いのが現状。これまで,構造が明確なさまざまな分子性の金属化合物が開発され,これを用いて比較的温和な条件での炭素-炭素結合の切断反応が試みられてきた。しかし,温和な条件でのベンゼン環の炭素-炭素結合の切断反応は成功していなかった。
2013年に研究チームは,3つのチタン原子(Ti)からなる新しい多金属ヒドリド化合物(チタンヒドリド化合物)を開発し,この化合物を用いて非常に安定な窒素分子の「窒素-窒素結合」の切断,および「窒素-水素結合」の形成に成功している。
今回,このチタンヒドリド化合物とベンゼンの反応を試みたところ,室温という温和な条件で炭素-炭素結合が切断できることを発見した。この反応を検証した結果,まずベンゼン環が3つのチタン金属上に結合し,その後これら3つのチタン金属が互いに協力し合って炭素-炭素結合の切断に働いていることが明らかになった。
分子レベルでベンゼン環が切断される様子を明らかにしたのはこの研究が初めて。また,ベンゼンだけでなく炭素が1つ増えたトルエンでも同様の炭素-炭素結合の切断反応が観察された。
この成果について研究グループは,工業的な芳香族化合物の分解反応のメカニズム解明,温和な条件で反応が進行する新しい触媒の開発などに有用な知見を与えるとしている。
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