生物研,クモ糸を紡ぐカイコの実用品種化に成功

農業生物資源研究所(生物研)は,強くて切れにくいクモ糸の性質と,シルクの性質を合わせもつ新しいシルク(クモ糸シルク)を生産するカイコの作出に成功した(ニュースリリース)。

クモの糸は「強く」て「伸びる」性質を併せ持つ繊維として知られているが,クモは共食いするので大量飼育によって糸をつくることができず,人工的に生産しようとする試みが世界中で行なわれている。

これまで微生物でクモ糸タンパク質を大量に作らせることに成功しているが,産生されたものは繊維化されず,さらに繊維化させる操作が必要だった。また天然のクモ糸タンパク質と同等なものを作らせることが難しいため,天然のクモ糸タンパク質の特性を再現させることは困難だった。

一方,クモ糸タンパク質はカイコのシルクと構造がよく似ているため,カイコに作らせることができれば糸を吐くときにそのまま繊維化できることから,カイコでクモ糸タンパク質を作らせる試みもなされている。しかしながらこれまでに得られた繊維は非常に弱く,紡績機などで機械加工を行うことは困難だった。

生研は,機械加工にも耐えられる実用的なクモ糸タンパク質をカイコに作らせて利用することを目的として,実際のシルク生産に用いられるカイコ品種にクモの縦糸遺伝子を導入し,強くて切れにくいクモ糸の性質と,カイコ本来の光沢や柔らかさを合わせもつ新しいシルク(クモ糸シルク)を生産することに成功した。

細くても強く切れにくいクモの縦糸を含んだクモ糸シルクは,通常のカイコのシルクの1.5倍の切れにくさを持っており,鋼鉄の約20倍の切れにくさを持つといわれるアメリカジョロウグモの縦糸に匹敵するほどだった。クモ糸シルクは,操糸から紡織までの全ての工程において従来のシルクと同様の機械を用いて加工することができるため,クモ糸シルク100%のベストやスカーフを制作することにも成功した。

生研では今後,さらに強度や機能性を高めたクモ糸シルクを開発することにより,手術用縫合糸などの医療素材や防災ロープ・防護服などの特殊素材の開発や,蛍光シルクなどの特色あるシルクを産生するカイコ品種と掛け合わせて,より高付加価値を持つシルクの開発も期待できるとしている。

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