東大ら,電気伝導性と磁性が同時に切り替わる純有機物を開発

東京大学らの研究グループは,水素結合ダイナミクスを用いて電気伝導性と磁性を同時に切り替えることができる純有機物質の開発に初めて成功した(ニュースリリース)。

さらに,高エネルギー加速器研究機構,総合科学研究機構,岡山理科大学,東邦大学らと共同で,この物性の切り替えが熱による水素結合部の重水素移動と電子移動の相関に基づく新しいスイッチング現象であることを解明し,重水素を水素の代わりに導入したことがこのスイッチング現象の実現の鍵であることを突き止めた。

今回開発した純有機結晶物質は,κ-D3(Cat-EDT-TTF)2 と表され,Cat-EDT-TTF と呼ばれる2 個の有機分子が [O···D···O] 型の重水素を介した水素結合により連結されたユニット構造のみから構成されており,金属や無機元素を含まない。

この物質の電気抵抗率と磁化率を温度を下げながら調べたところ,185 K(–88 °C)付近で半導体から絶縁体に,常磁性状態から非磁性状態に変化した。加熱した場合も同じ温度で逆の現象が起きた。この物質の水素結合部の重水素(D)が水素(H)である類似物質では,このようなスイッチング現象は観測されておらず,量子スピン液体状態であることが明らかとなっている。水素結合部の違いでこのような違いが起きたということは,この物質において水素結合と電子物性が密接に相関していることを示唆している。

放射光を用いて各種の温度における結晶構造を調べたところ,熱による重水素移動を引き金とした電子移動がこのスイッチング現象の起源となっていることが明らかとなった。さらに,スイッチング現象を示さない水素体と結晶構造を比較したところ,水素を重水素に置き換えたことによって水素結合構造がわずかに変化しており,これが重水素移動とスイッチング現象を可能としていることを突き止めた。

今回開発した物質は水素移動と電子移動が動的に相関した真に新しい機能性純有機固体となる。研究グループは今後,この物質の詳細な物性測定や理論計算を進めることで,固体中における水素移動と電子移動の相関現象の基礎的な理解,そして固体化学・固体物理分野の学術的な深化につながるとしている。さらに,この物質のさらなる化学修飾・機能化により,新しいタイプの低分子系純有機スイッチング素子・薄膜デバイスも期待できるとしている。

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