東大,炎症における細胞死がデジタルな様式で制御されることを発見

東京大学の研究グループは,細胞の炎症応答に関与するたんぱく質分解酵素の一種である「カスパーゼ-1」の活性化を検出するプローブを開発し,マクロファージにおいてカスパーゼ-1が活性化される様子を捉えた(ニュースリリース)。

生物が細菌による感染あるいは損傷による組織の傷害を受けると,炎症応答をはじめとする免疫応答が起こる。その一つとして,細菌感染やストレスに応答する細胞内たんぱく複合体であるインフラマソームによってカスパーゼ-1が活性化され,最終的に炎症性サイトカインの分泌や炎症性細胞死(パイロトーシス)が生じる経路が注目されている。

インフラマソームによる炎症性サイトカイン分泌制御の破綻は,自己炎症性疾患やがん,糖尿病といった慢性炎症が関与する疾患の病態にかかわっていることが知られている。しかしながら,インフラマソーム−カスパーゼ-1経路の活性化が,単一細胞内でどのように生じるかについてはよく分かっていなかった。

今回研究グループは,カスパーゼ-1の活性化を可視化する蛍光たんぱく質プローブを用いた単一マクロファージの解析により,カスパーゼ-1が活性化された細胞では細胞死が起き,活性化されていない細胞では細胞死が起きないという観察結果を得た。

また,カスパーゼ-1が活性化されてから細胞死に至るまでの活性化の様子は,刺激の種類や強度に依らずほぼ一定であった。これは,カスパーゼ-1の活性化によって引き起こされる炎症性サイトカインの分泌やそれに続く細胞死は,ひとつの細胞内では刺激の強さに応じて連続的(アナログ)に制御されているのではなく,全か無かのデジタルな様式で制御されることを示唆している。

さらに,単一細胞からのサイトカイン分泌を可視化した解析では,炎症性サイトカイン(IL-1β)の急激な放出がカスパーゼ-1活性化に続き非常に短い時間内に生じ,かつカスパーゼ-1を活性化した細胞のみから生じることが明らかとなった。

研究グループは,今回明らかにしたインフラマソームを介したカスパーゼ-1活性化のデジタルな制御が,急性炎症のみならず,自己炎症性疾患,自己免疫性疾患やがん,糖尿病等の慢性炎症が関与する疾患の病態にも寄与している可能性があるとしている。

また,今回開発したプローブを用いて,さまざまな急性および慢性炎症モデルマウスでインフラマソーム−カスパーゼ-1経路を可視化することで,生体内で炎症応答が単一細胞レベルでどのように制御されるかを解明することも可能であり,新たな病態発症機構の解明や治療法開発への発展が期待されるとしている。

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