NCNP,記憶シナプスの減少が統合失調症の発症に関与することを発見

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の研究グループは,統合失調症のさまざまな症状が,記憶や感情を担う脳内ネットワークを構成するシナプスの急激な減少によって生じる仕組みを,霊長類のコモンマーモセットを用いた研究で明らかにした(ニュースリリース)。これは霊長類を使って記憶や感情を担う脳神経細胞の発達過程を調べた世界で初めての定量的研究となるもの。

ヒトを含む高度な脳を持つ霊長類は,生まれてすぐに脳の神経細胞同士を結合するシナプスを急激に増大させ,少年期になると不要なシナプスの刈込みを行なって効率化していくことが知られている。これは霊長類特有の脳の発達過程であり,マウスなどのげっ歯類では見られない。

合失調症などの精神疾患は「シナプス病」とも呼ばれ,脳の領域同士をつなぐネットワークに異常があることが示唆されるが,実際にシナプスの数が極端に減少して大脳皮質が通常よりも薄くなっていることが,MRI画像からも明らかになっている。特に統合失調症では,海馬との結合が強く,記憶との関係が深い辺縁系皮質において脳の結合障害が大きいことが分かっている。

研究チームは霊長類唯一のモデル動物であるコモンマーモセットを用いて,記憶や感情に関わる領野と俊敏な判断に関わる脳領野を比較し,その発達過程を調べた。その結果,記憶や感情に関わる領野(24野・14r野)と俊敏な判断に関わる領野(8B/9野)は共に乳幼児期にシナプスを増大させた後,少年期に入るとそれを減少させていった。

しかし,俊敏な判断に関わる領野では思春期以降もシナプスを減少させていくのに対し,記憶に関わる領野では,思春期に入るとシナプスを一定数に保ち,減少させなかった。記憶領野特有のこの現象は海馬から常に情報を入手し,記憶情報を維持していくために必要なためと考えられる。

統合失調症では,この記憶や感情に関わる24野と14r野のシナプスが思春期以降も減少し続けることが分かっている。今回の研究から,通常では一定量に維持されている記憶や感情に関わるシナプス数の減少が,統合失調症の発症に関与していることが想定される。また,統合失調症の好発期が思春期から30歳位までであることは,この脳内メカニズムの障害への関与を裏付けるものと言える。

今回の研究により,統合失調症の好発時期に,記憶関連領野で必要とされるシナプス維持のメカニズムに障害がおこることが明らかになった。研究グループでは今後,このシナプス維持に関わる遺伝子を解明することにより,統合失調症治療への道が開けるものと期待されるとしている。

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