京都大学は,新しい太陽電池材料として近年活発な研究が行なわれているハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbI3)中の電子の振る舞いを解明したと発表した(ニュースリリース)。
ハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体は,2009年に初めて太陽電池材料として報告された材料だが,基板やフィルムに「塗る」ことで作製できる。太陽電池を「印刷技術」により作製できるため,従来の太陽電池に比べて製造コストを大幅に下げることが可能として注目を集めている。
2012年以降,その光電変換効率は驚異的な速さで改善が進み,一躍,次世代太陽電池研究の主役の座に躍り出ている。その効率は20%にも届こうとしており,実用化への期待も大いに高まっている。
しかし,急速に進む応用研究の一方で,高い変換効率をもたらす鍵となる基礎的な物性の理解はほとんど得られていなかった。特に,太陽電池の最も本質的な物性の一つであり,さらなる効率向上のために必要不可欠である「光によって半導体中に形成される電子の振る舞い」については,これまで未解明のままだった。
今回,研究グループでは,発光と光吸収の時間変化を追跡することによって,励起子か自由電子かという問題を解決した。300fsの励起光を試料に照射した後,発光強度や光吸収が徐々に変化していく様子を観測し,その減衰時間を評価した。
その結果,光励起直後の発光強度は励起するレーザの強度の二乗に比例することが分かった。このような振る舞いは束縛状態である励起子の場合には見られず,電子と正孔が互いに衝突することによって発光する場合に起こることが知られている。このことから,ペロブスカイト半導体中では,電子と正孔は励起子を形成しておらず,自由に半導体中を運動していることが分かった。
また,発光と光吸収の減衰時間は励起光の強度に依存していることを見出した。これは高密度励起状態では,電子と正孔の再結合が高効率に起こるためと考えられるとしている。減衰時間の励起光強度依存性から電子と正孔の衝突の起こりやすさを評価したところ,GaAsなど既存の優れた光電子デバイス材料に匹敵する値を示しており,太陽電池だけでなく他の光電子デバイスへの応用も期待されるという。
この研究では,発光や光吸収の時間変化を追跡することで,ペロブスカイト半導体の薄膜中で光によって生成した電子の状態を明らかにすることに成功した。その結果,これまでは有機太陽電池材料のように電子と正孔が励起子を形成すると考えられていたが,実際には電子と正孔はそれぞれ自由に運動していることを初めて突き止めた。今後はこの知見を活かし,より効率の良い太陽電池デバイスの設計が期待できるとしている。
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