筑波大ら,共役系高分子マイクロ球体による新しい有機フォトニクス材料を発見

筑波大学は,独デュースブルグエッセン大学(ドイツ)と共同で,共役系高分子(パイ電子が共役した高分子の総称)の自己組織化により形成される,マイクロ球体1粒子から,“ささやきの回廊(Whispering Gallery Mode, WGM)”発光と呼ばれる共鳴発光現象を観測した(ニュースリリース)。

研究グループは,フルオレンやビチオフェンなどの分子部位が交互に連結して形成する共役系高分子1−4から形成したマイクロ球体1粒子に対しレーザ光を照射し,1粒子からの発光特性を計測したところ,これらの球体から鋭い周期的な発光ピークが,ブロードな発光スペクトルに重なって出現することを発見した。

発光ピークの間隔が球体の直径に対し系統的に変化すること,球体の端部分を光励起したときにのみ鋭い発光ピークが観測されることどの特徴から,これらの発光はWGM発光であることを明らかにした。これは,球体内部で発生した光が球体と外部(空気)との大きな屈折率差によって球体内部に閉じ込められ,最大円周を周回する際に光の位相が一致する波長において共鳴を起こし,鋭い発光ピークが現れたと考えられる。

このような発光ピークは,これらの高分子から作製した薄膜や溶液では観測されず,球状構造体を形成することによって発現する特異な現象。有機・高分子材料において,蛍光色素を添加せずに単一の化合物から形成した球体によるWGM発光は報告されておらず,共役系高分子の新しい物性が発見された。

さらに,詳細なスペクトル解析を行なったところ,これらの球体の発光ピーク位置がWGM発光の理論値とよく一致することを確認した。また,球体の直径とQ値の間に明確な相関関係があることを見出し,直径が2μm以上になるとWGM発光が観測され,粒径の増大に伴いQ値が増大する(光閉じ込め効率が向上する)ことを明らかにした。

球体表面を高屈折率の金属酸化物(TiO2)やフラーレン(C60)などで覆うことにより,レーザの連続照射に対しWGM発光が劣化せずに持続することもわかった。

このような発光は,WGM発光と呼ばれ,これまでに,無機材料からなるマイクロ球体,蛍光色素を添加した高分子や液晶球体などからの観測が報告されているが,発光性を有する高分子そのものから形成した球体によるWGM発光現象が観測されたのは,今回が初めて。

この球体は,“発光特性を併せもつマイクロ共振器”として機能する新しい材料となる。また,作製プロセスが簡便という点も応用展開において重要。さらに,球体自体が導電性を有することから,今後,電界発光(EL)素子としての応用も期待できる。

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