KEK,反ニュートリノビーム運転に同期した事象をスーパーカミオカンデにて観測

11ヶ国,59の研究機関の研究者が参加する国際共同実験であるT2K長基線ニュートリノ振動実験は,J-PARCハドロン実験施設の事故による約1年のシャットダウンを経て,2014年5月26日に実験を再開し,夏前のビームタイムを予定通り6月26日に無事終了した。

T2K実験はこれまでに「ニュートリノビーム」を用いたニュートリノ振動測定を行ない,2013年には世界で初めて電子ニュートリノ出現事象を発見した。今期からは,次の目標である「CP対称性の破れ」を測定するために,日本初の「反ニュートリノビーム」を使用してのニュートリノ振動測定を開始した。

反ニュートリノは,ニュートリノの反粒子。ニュートリノ(粒子)と反ニュートリノ(反粒子)のそれぞれでニュートリノ振動測定を行ない,それらの間の違いを詳しく調べることで,粒子と反粒子の違いを表す「CP対称性の破れ」が,ニュートリノに対して存在するのかどうかを検証する。

レプトンに分類されるニュートリノに対してCP対称性が破れているかどうか,というのは,この世界が物質で溢れている(物質優勢宇宙と呼ぶ)事実に対する答えを与えてくれる一つの鍵として注目されている。

反ニュートリノビームを生成し運転することは,日本初(J-PARC初)のことだったが,2014年6月8日には,岐阜県飛騨市にある後置検出器スーパーカミオカンデにて,反ニュートリノビーム運転を開始してから初めて,それに同期した事象を観測することに成功した(ニュースリリース)。

図は,その時のスーパーカミオカンデのイベントディスプレイ。色の付いている小さな丸は,光センサにチェレンコフ光によるヒットがあった箇所を表している。ヒットのあった光センサの位置や検出した時刻,光量などの情報を使って,チェレンコフ光の作る円形模様(チェレンコフリング)を探す。

この事象では3つのチェレンコフリングが観測されたことが分かる。これらのリングがどのような反応なのか,また,このような事象がどれくらいの数あるかなどの詳細は実験グループが鋭意解析している。

今夏はメンテナンスなどのため再度シャットダウンし,秋からはビーム強度を上げて測定を再開する予定。パワーアップ後のT2K実験からの成果が期待される。

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