自治医科大学と東京大学は,肥満に伴う脂肪組織の肥大や全身の代謝異常に,リゾホスファチジン酸を作る酵素であるENPP2(オートタキシン)が関わっていることを明らかにした(ニュースリリース)。ENPP2は白色脂肪組織だけでなく,熱産生やエネルギー代謝に重要な褐色脂肪組織・骨格筋にも作用があり,糖代謝を制御していた。この解析には新たに開発した二光子顕微鏡による生体分子イメージングを用いた。
ENPP2は別名オートタキシンといい,癌細胞の遊走に重要な,つまり癌を呼び寄せる作用のある酵素として見つかった。ENPP2はリゾリン脂質という特殊な脂質(リゾホスファチジン酸)を作るだけでなく,ENPP2自体も多くの作用がある。今回の研究で,ENPP2の肥満に対する関わりが明らかになった。
ENPP2は多くの臓器で発現が見られるが,脂肪組織,特に(前駆)脂肪細胞で多く作られている。そこで,ENPP2の生体での作用を明らかにするために,ENPP2の全身欠損マウス,脂肪細胞特異的欠損マウス,脂肪細胞特異的過剰発現マウス,の3種類を作成した。
ENPP2ヘテロ欠損マウス,脂肪細胞特異的ENPP2欠損マウスでは高脂肪食に伴う肥満,脂肪組織増殖が抑えられており,「やせたマウス」ができた。さらに,体重の抑制に加えて,肥満に伴う糖尿病の著明な改善がみられた。また,いずれのマウスでも褐色脂肪組織の機能が改善しており,全身のエネルギー消費量が増加していた。
ENPP2は直接インスリン作用を低下(阻害)させる他,脂肪細胞の分化・増殖にも関わっていた。これらの作用は,ENPP2によって生合成される脂質の働きだけでは説明できず,ENPP2の直接的な作用が考えられている。
研究グループは今後,ENPP2の機能を調節することで,あらたな代謝疾患の治療が可能になると考えており,より詳細なメカニズムについて研究を進めるとしている。