物質・材料研究機構(NIMS), 東京工業大学,名古屋大学らの研究グループは,最も広く使われている圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛について単結晶膜を作製し,電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数を直接測ることに成功した(ニュースリリース)。
圧電体は,電気信号により構造が変化する性質を活かして,ガスコンロの着火器や加湿器のミストの作製,さらにはインクジェットプリンタや3次元プリンタで使用されるマイクロデバイス(MEMS)等の動力源として利用されている。
実用化されているチタン酸ジルコン酸鉛は,電気信号によって結晶構造や微構造が複雑に変形するため,これまで60年間も使用されているにも関わらず電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数という圧電体で最も基本的な特性は明らかになっていなかった。
研究グループでは,世界で初めて作製に成功したチタン酸ジルコン酸鉛の単結晶膜を用いて,大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光で高速に電気信号を加えた時の結晶格子の伸びを,直接観察した。その結果,1億分の2秒(20ナノ秒)以下という極めて短時間の結晶格子の歪みを観測する事に成功し,電気的エネルギーと機械的エネルギーの変換係数を初めて測定することに成功した。
チタン酸ジルコン酸鉛の本質的な圧電性が明らかになったことで,圧電体の設計が飛躍的に進み,圧電体の性能向上が期待できる。こうした圧電体の性能向上は,3Dプリンタ技術の飛躍的向上,自動車用エンジン用フュエル・インジェクタ(燃料噴射装置)の高効率化,さらには,発電所等や自動車のエンジン等の高効率運転が可能になる等の大きな波及効果が期待できる。
さらには, 非鉛圧電体開発の加速による環境問題への貢献, 高速応答デバイスの時間分解測定による材料評価の実現と製品開発へ貢献などにも期待できるとしている。