東大,蛾の性フェロモン生合成を司るペプチドの結合に重要な受容体の部位を特定

東京大学の研究グループは,蛾の性フェロモンの生合成を司る神経ペプチド(pheromone biosynthesis-activating neuropeptide,PBAN)と結合するPBAN受容体の機能に重要なアミノ酸残基を特定し,PBANとPBAN受容体が結合した状態のモデルを構築した(ニュースリリース)。

蛾の雌は,交配のため性フェロモンを利用して雄を誘き寄せている。雌の蛾の体内では,頭部にある神経細胞から33個のアミノ酸らなるPBANが分泌され,腹部末端のフェロモン腺にあるPBAN受容体にPBANが結合することで,初めて性フェロモンが作られる。しかし,PBANとPBAN受容体の結合様式やPBAN受容体の機能に重要なアミノ酸残基は未解明だった。

研究グループは今回,PBAN受容体の①細胞膜への移行,②PBANへの結合,③PBANとの結合を細胞内に伝える情報伝達,という3つの機能に重要なアミノ酸残基をPBAN受容体の点変異体解析により明らかにした。また,コンピュータシュミレーションによって上記の解析データをうまく説明できるPBANとPBAN受容体が結合した複合体の立体構造モデルを構築した。

同時に,PBANと活性部位のアミノ酸配列が類似しているヒトの神経ペプチド,ニューロメジンU(NMU)とその受容体の複合体の立体構造モデルも構築し,PBANとNMUの活性部位が類似の様式で各受容体に結合することを提唱した。

この研究により同定されたPBAN受容体の機能に重要なアミノ酸残基の位置は,既に結晶構造が明らかになっている低分子化合物を認識するGタンパク質共役受容体(GPCR,アデノシン受容体やβアドレナリン受容体)の重要アミノ酸残基の位置とよく対応していたが,一方でPBAN受容体とNMU受容体に特徴的な重要残基も見出された。

この成果は,PBANとPBAN受容体の結合を阻害する害虫防除剤の開発に役立つだけでなく,ヒトの摂食抑制作用,ストレス反応の調節,痛みの制御などに関わっているNMUの受容体認識機構についても新たな情報を提供するものだとしている。

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