京都大学の研究グループは,不斉有機分子触媒の新技術として,ラジカル反応を促進・制御する不斉有機硫黄ラジカル触媒を実現した(ニュースリリース)。
農薬や医薬品などに使われる分子は,実際には立体的な構造をしており,その空間的な広がり方が薬としての作用に決定的な役割を果たす。構造が単純で安価な分子から医薬品等に使えるような,複雑で付加価値の高い分子を作るには,そのような空間的配置をコントロールしながら,分子と分子を繋げることのできる不斉触媒を用いることが効果的となっている。
このような触媒としては金属を活性中心に持つものが多用されているが,資源量・環境毒性などが懸念されている。そこで今世紀にあるべき持続型・環境調和型の不斉触媒として,炭素・窒素・酸素といった地球上どこにでもある元素を巧みに利用したメタルフリー有機分子触媒が注目されている。
しかしこの十数年,盛んに研究されてきた不斉有機分子触媒は簡単な「イオン反応」という形式でしか分子を繋ぐことができず,原料に使える分子・作られる分子(生成物)ともに金属触媒の汎用性には遠くおよんでいなかった。
今回研究グループは,この現状を打開する手段として,従来の不斉有機分子触媒では利用されてこなかった,ラジカルという化学種を使うことに着目した。具体的には有機分子である「有機硫黄ラジカル」に,不斉触媒としての機能を持たせ「ラジカル反応」をコントロールしながら,分子を繋ぐ技術を開発した。
ラジカル反応はイオン反応と相補性のある反応形式で,アクリル樹脂のような日用品に含まれる高分子を作る際に工業的に使われている。これまでは,ラジカルが元来高い反応性を示す化学種であることから,ラジカル反応を触媒の力で制御し,医薬品など複雑な立体を持つ低分子の合成に使う研究はほとんど行なわれていなかった。
有機硫黄ラジカルは不安定な化学種であり,安定なジスルフィドという分子に光(紫外線)を当てて,硫黄と硫黄の結合を均一開裂させることで発生させる。光の照射を止めると,ジスルフィドに戻ってしまうため,この有機硫黄ラジカルを触媒として使うには反応を行なっている間,光を当て続けることが必要。通常の実験では光源として水銀ランプを用いているが,環境調和の観点から太陽光を利用することもできる。
従来の不斉有機分子触媒では基本的にイオン反応による有機合成しか実践することはできず,不斉金属触媒の汎用性に匹敵するものではなかった。今回,不斉有機分子触媒の新技術としてラジカル反応を促進・制御する不斉有機硫黄ラジカル触媒が実現した。
ラジカル反応はイオン反応と相補的な関係にある反応形式であり,これまでの不斉有機分子触媒では使えなかった原料を使って,作れなかった分子が作れるようになる。研究グループは今後,有機分子触媒と太陽光を組み合わせた新しい環境調和型不斉触媒の発展にも努めていきたいとしている。
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