東大ら,ヒトからハエまで共通した頭部形成の分子メカニズムを解明

東京大学と産業技術総合研究所の研究グループは,その形態が全く異なるにも関わらず,ヒトとハエの頭部形成に共通して関わっているOtxタンパク質が「頭部」の場所を決める働きをもち,パートナーのLim1とGscがどのような頭部を作るかを決める,という新しい制御機構を,カエル胚を用いて見出した(ニュースリリース)。

遺伝子のスイッチを操作する遺伝子制御タンパク質のOtxは,ヒトからハエまでの「頭部をもつ動物」に共通に存在し,初期胚の頭部形成に関わることが知られている。しかし,ヒトとハエの頭部は互いに全く異なる形態をもっているため,その形成になぜ同じタンパク質が,またどのようにして関わるかが不明であった。

研究グループは,ツメガエルの胚と最新の次世代シークエンス技術を駆使して,頭部形成の分子メカニズムを解析した。その結果,ツメガエルのOtxタンパク質は,さまざまな遺伝子のスイッチである制御領域に結合し,遺伝子制御タンパク質のLim1と一緒に標的遺伝子を活性化する(つまり遺伝子のスイッチをオンにする)一方,Gscと一緒に標的遺伝子を抑制する(つまり遺伝子のスイッチをオフにする)ことを突き止めた。

すなわち,Otxは胚の中で頭部という場を決め,その場所でどのような形態を作るかは,Otxが一緒に結合する他の遺伝子制御タンパク質によって決まり,頭部形成に必要な遺伝子を活性化し,頭部形成を妨げる遺伝子を抑制することで,ヒトとハエはそれぞれ7億年をかけて異なる頭部を進化させてきたと示唆される。

この研究は,発生学から進化の道筋を考える進化発生生物学の分野において,遺伝子の制御機構の仕組みに基づく頭部進化の原理を明らかにしたという点で,新たな道を切り拓いたといえるもの。