産業技術総合研究所(産総研)は,リソグラフィ技術で形状加工した単層CNTと銅を複合化することで,銅の100倍電流を流せる単層CNT銅複合材料の微細配線加工技術を確立した(ニュースリリース)。また,CNTと銅の複合化により銅の熱膨張が抑制されるため,単層CNT銅複合材料の熱膨張係数がシリコン(Si)と同程度になることも明らかにした。
トランジスタやメモリデバイスといった電子デバイスの小型化は,回路が微細化すると回路に流れる電流密度が高くなるため,2015年にはデバイス内の電流密度は銅や金の破断限界を超えると言われている。一方,カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素系材料は高い電流容量をもち,電流密度の増大には対応できるものの,配線材料としては電気伝導度が不十分であり,新たな配線材料の開発が喫緊の課題となっている。
今回開発した単層CNT銅複合材料配線の作製方法は,まずSi基板上に垂直配向単層CNTが膜状に成長するように合成し,次にこのCNT膜をはがし,ほかの基板上に載せる。このとき,単層CNT膜をイソプロピルアルコールに浸漬させたのち乾燥させることで,基板に水平に配向している単層CNT膜を高密度化し,基板への密着性を高めることができる。このプロセスにより,リソグラフィで単層CNT膜を加工できるようになり,平坦な配線形状だけでなく,多段配線形状,架橋配線形状など,さまざまな加工ができる。
このようにして作製した単層CNT配線に,銅イオンの有機系溶液と水溶液で順に電気めっきすると,配線形状に加工した単層CNT銅複合材料配線を作製できる。通常,銅やアルミニウムのような高導電性材料は,Siとの熱膨張係数の差が大きいため,電子デバイスやMEMSの配線には,熱サイクル下で熱膨張の違いによる機械的なひずみが発生し,信頼性を低下させていた。今回開発した単層CNT銅複合材料配線では,熱ひずみの影響が抑制されるため,デバイスの信頼性向上が期待される。
産総研では今後,開発した単層CNT銅複合材料配線の加工技術をもとに,単層CNT銅複合材料がもつ高電流容量,温度依存性の小さい導電率,Siと同等の熱膨張係数などの特性を生かせる用途を見いだし,デバイス開発につなげたいとしている。