中大ら,穏和な条件で炭素・窒素三重結合を切断する化合物を発見

中央大学は香港科学技術大学と共同で,ホウ素・ホウ素単結合を持つ化合物が,最強の化学結合の一つである炭素・窒素三重結合を穏和な条件で切断することを発見した。この成果はNature Communicationsに発表された。

化学において新しい物質を作り出すためには,原子と原子を結びつける「化学結合」を自由自在に操って,原子の並び順を組み替えることが最も重要となる。その操り方には,化学結合を新しく作ることと,化学結合を切ることの二通りがある。

この化学結合には多くの種類があるが,その中で分子を形作る基本となる「共有結合」は原子と原子の間で二個の電子を共有して結合する。この共有結合の中には,二個の電子を共有する結合(単結合:通常は「ばね」のように振動している)だけでなく,四個,六個の電子を二個の原子の間で共有することで,より強い結合を作るものもある。

この中で六個の電子を共有している結合は,二個の電子の組が三組(=ばねが三本)あるため「三重結合」と呼ばれ,最も強い=切れにくい結合に分類される。三重結合を「切る」方法は世の中に多く存在しているものの,高い温度や強い酸、ある種の金属成分を必要としている方法のみが知られていた。

今回研究グループは,炭素原子と窒素原子の間にこの強い三重結合を持つイソニトリルという有機化合物に対し,ホウ素原子(元素記号B)を二個含む分子を合成して混ぜると,高い温度・強い酸・金属成分,のいずれも不要なままイソニトリル分子の炭素・窒素三重結合を切断する反応が起こり,新たな分子ができることを明らかにした。

新たな分子には,もともとイソニトリル分子の三重結合を形作っていた炭素原子と窒素原子が含まれるが,これらの原子は新たな分子の構造中で直接結合しておらず,離れた位置にある。すなわち三重結合が切断されたことがわかった。

新たな分子の構造を明らかにするため,「X線結晶構造解析」および13C同位体標識を用いた「核磁気共鳴分光法」を用いた。また,この反応の途中において,合成したホウ素原子を含む分子と,イソニトリル分子に含まれるそれぞれの原子がどのように動いて反応が進行したのか,ということを「密度汎関数法」により解明した。

これにより,この特殊な反応が起こった一番の理由は,今回使用した,ホウ素原子を含む合成した分子の,二個のホウ素原子の間にある単結合が反応しやすいからだとわかった。

今回の研究成果は人類が「三重結合を切断する新しいツール」を手に入れたことを意味するが,まだ直接の応用が見えているわけではない。この先,この特殊な反応がどこまで一般性を持つのか,炭素・窒素の三重結合だけではなく他の種類の三重結合は切断できるのか,などについて解明していくことで,その応用範囲が明らかになっていくとしている。