東北大,消費電力削減に貢献するナノ結晶軟磁性材料を開発

東北大学は,高飽和磁束密度や低鉄損等の優れた磁気特性を有するナノ結晶合金を新たに開発した(ニュースリリース)。開発された軟磁性ナノ結晶合金は,厚さ約40㎛,幅は最大120mmの薄帯形状で,溶けた合金から効率的に直接連続鋳造される。

電磁変換時のエネルギー損失を支配する磁心材料は,数十年に渡り主に電磁鋼板(ケイ素鋼板)が用いられ,その地道な材料特性の改善により損失低減が図られてきた。しかしながら,モータやトランスの磁心からの電力損失(鉄損)は国内電量消費量の約3.4%を占め,これは50万kWhクラスの火力発電所7基分に相当する。

これらの課題を解決するため,アモルファス合金を用いた磁心の実用化が検討されている。アモルファス合金磁心は極めて小さな鉄損を示すことから「トップランナー方式」による電気機器の高効率化を達成すると期待される。

しかしアモルファス合金は,従来の電磁鋼板(Bs=1.9T)にくらべて飽和磁束密度が低く(Bs=1.6T),磁心が大型化するという欠点がある。このような背景から,電磁鋼板に匹敵する高飽和磁束密度とアモルファス合金並の低鉄損を兼備した革新的磁心材料の開発が強く求められていた。

研究グループは,Fe-Co-Si-B-P-Cuを主成分とするアモルファス合金を新たに開発し,厳密な熱処理によりアモルファス相を適切にナノ結晶化させることで高飽和磁束密度と低鉄損を兼備したナノ結晶軟磁性材料を新たに開発した。

この合金は単ロール型液体急冷法により,幅120mmの薄帯として鋳造製造される。この薄帯を積層あるいは巻回により磁心とし,適切な熱処理を施すことで電磁鋼板に匹敵する1.84Tの高飽和磁束密度を実現した。

さらに,金属学的アプローチにより結晶平均粒径25nmと抑えることでアモルファス合金磁心並の0.7 W/kg(W1.7/50)の低鉄損も実現できた。この磁心をトランスやモータに応用することで大幅なエネルギー損失低減と機器の小型化が実現できると期待される。