筑波大,神経細胞も筋肉細胞もない奇妙な生きもの「平板動物」を日本各地で確認

筑波大学は,平板動物を日本各地から採集することに成功した(ニュースリリース)。 平板動物は3層に配置されたわずか5種類の細胞からなる,直径 0.5~3mm 程の海産動物。

平板動物は,消化管,呼吸器系,排出系の器官や組織はおろか,神経細胞も筋肉細胞もないとされ,自由生活をする動物としては世界でいちばん単純な体制(構造)をもつ動物といえる。このことから古くから進化学研究者の関心を集めてきたが,有性生殖過程や成熟精子なども未だに確認されておらず,その生態は謎に包まれている。

さらに,体の構造(体制)があまりにも単純なために,光学顕微鏡では種の分類に用いられる特徴の観察ができず,そのせいで,130 年以上に渡って,平板動物門として分類されているのは Trichoplax adhaerens ただ1種のみという,動物としては異例な事態が続いている。

しかし,近年のDNAの塩基配列の大規模な解析や電子顕微鏡を用いた微細構造の観察によって,平板動物門内には複数のグループが存在することが明らかになった。それでも,それらのグループが1種内の変異にすぎないのか,別種なのか,あるいは別の属や科に分けるべきもっと遠い関係なのかは,未だ不明。

平板動物は野生からの採集は困難で,1883年の初記載も水族館の水槽から発見された個体だった。世界で2例目の野生環境からの採集は1977年に日本から報告されたが,その後,国内での平板動物の研究はあまり活発ではなかった。

今回の研究では,安定した採集方法を確立した上で調査を行なった日本の6カ所すべてにおいて,平板動物の採集に成功した。2カ所からは冬期にも採集に成功しており,一年中日本各地に平板動物が生息していることが示唆された。

また,熱帯から亜熱帯性と考えられてきた平板動物が,北太平洋をはじめ世界中の温帯や亜寒帯の海域にもいることが推測され,これらの集団を研究することで,発生過程など未だに多く残る平板動物の謎の解明が進むことが期待される。