名大ら,安静状態の脳活動パターンが自閉症スペクトラム傾向に関与することを発見

名古屋大学,福井大学,大阪大学,金沢大学,浜松医科大学,千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科,金沢大学の共同研究として,MRIを用い,安静状態での脳活動(デフォルトモードネットワーク:default mode network,DMN)を自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder:ASD)をもつ青年期男性にて探求したところ,健康な青年期群(定型発達群)と比べて,DMNの脳領域間(内側前頭前野と後部帯状回など)の機能的連結が弱いことが明らかになった(ニュースリリース)。

ASDは,「自閉性障害(自閉症)」,「アスペルガー障害」,「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれていたものが,若干の診断基準変更とともに統合された症例で,社会性の障害が主症状であり,その病態を探求するために社会性課題を用いた脳画像研究が盛んに行なわれてきた。

社会的行動には,脳の正中部に位置する内側前頭前野(medialprefrontal cortex:MPFC)と後部帯状回(posterior cingulate cortex:PCC)などの脳領域が関与している。しかし,社会性課題遂行には,知的能力や集中力維持などの別の要因も必要であり,どの被検者にも行ばえる簡便なものではなかった。

近年,DMNと呼ばれる安静状態での脳活動をMR撮影によりとらえる脳機能研究(resting-state functional magnetic resonance imaging:rs-fMRI)が行なわれるようになった。この簡便な撮影により,社会的行動に関与するDMNの脳領域間の機能的連結を探求することができる。

今回,各被検者のMR画像を専用のコンピュータソフトにて解析し,DMNの中枢領域であるMPFCとPCCが機能的連結している脳領域の大きさと連結の強さを調べた。その結果,ASD群のほうが,定型発達群と比較して,MPFCとPCC が機能的連結している脳領域は小さく,連結が弱いことがわかった。その両群の違いが見られた脳領域での脳活動とAQは負の相関関係が認められた。また,ASD群,定型発達群の各群においても,AQと負の相関関係を示す領域がいくつか認められた。

以上の結果より,ASD群は,社会的行動に関与するDMNの脳領域間の機能的連結が弱いこと,また,DMNの脳領域間の機能的連結の強さは診断の有無にかかわらず自閉症スペクトラム傾向と関連していることが確認された。よって,DMNの脳活動パターンがASD診断にかかわらず自閉症スペクトラム傾向のバイオマーカーになる可能性が示唆された。

この方法により,今まで集中が困難で脳機能を探索する課題が十分に実施できなかった被験者や,幼少児の被検者でも,脳機能活動を検討することができ,自閉症スペクトラム傾向を探求することが期待できる。その結果から,早期発見・早期治療となる手がかりを得ることや,薬剤投与等の治療的アプローチを行ったあとの脳科学的指標(効果判定)に役立つことも期待される。