基生研,ミドリゾウリムシとクロレラの共生における遺伝子発現の変化を解明

基礎生物学研究所(基生研),島根大学,山口大学らは,ミドリゾウリムシの大規模な遺伝子カタログを構築するとともに,クロレラとの共生の有無によって,ミドリゾウリムシの遺伝子発現がどのように変化するかを初めて明らかにした(ニュースリリース)。

ミドリゾウリムシは,ゾウリムシと近縁の原生動物で,その細胞内にクロレラを共生することが知られている。ミドリゾウリムシはクロレラに二酸化炭素や窒素分を与え,クロレラは光合成を行ない<光合成で得られた酸素や糖をミドリゾウリムシに与え,互いにメリットをもたらす「相利共生」の関係にある。

ミドリゾウリムシとクロレラは,真核細胞同士の細胞内共生(二次共生)の成立機構の解明に有用な研究材料として有望視されているが,遺伝子に関する情報がほとんどなかった。

研究グループは,まず,ミドリゾウリムシの網羅的な遺伝子カタログを作成した。ミドリゾウリムシからRNAを抽出し,次世代シーケンサーを利用したRNA-seqと呼ばれる技術で40Gbp(400億塩基対)以上もの転写産物の塩基配列情報を取得し,大型計算機を用いて,10,557個のミドリゾウリムシ遺伝子を同定した。

次に,クロレラを共生しているミドリゾウリムシとクロレラを除去したミドリゾウリムシからそれぞれRNAを抽出し,クロレラとの共生の有無により宿主であるミドリゾウリムシの遺伝子発現がどのように異なるのかを,上の遺伝子セットをもとに調べた。

発現が変化するミドリゾウリムシの遺伝子数は6,698個だったが,共生によって発現量が変化する遺伝子群には,ストレスタンパク質遺伝子や抗酸化作用をもつグルタチオン-S-トランスフェラーゼ遺伝子などが含まれていた。これらの遺伝子が,共生の成立と維持にどのように関与しているのか,今後の研究が待たれる。

二次共生は細胞の進化の原動力となった生命現象で,地球上のいたるところで繰り返し起こっており,生命進化の重要な要因のひとつとして考えられている。今回の研究成果は,ミドリゾウリムシに二次共生研究のモデルとしての確固たる地位を与えただけでなく,多様な共生の成立機構を遺伝子レベルで理解する基盤となるもの。