名古屋大学の研究チームは,あいちシンクロトロン光センターを利用して,マグネタイトを正極活物質とするリチウム電池の充放電過程を詳細に解明するとともに,電池反応に伴うマグネタイトの大きな磁性変化を発見した(プレスリリース)。
マグネタイト(磁鉄鉱,Fe3O4)は最古の磁石として知られ,今日では HDD など磁気記録媒体として身の回りで用いられる一方,鉄イオンの酸化還元反応を利用した二次電池の正極活物質への応用も試みられている。しかしながら,その電池(電気化学)反応は詳細には検討されていなかった。
今回の研究ではその反応機構を解明するために,特殊な電池セルを用いてFe3O4を正極活物質とするリチウム電池を作製し,あいちシンクロトロン光センターで X 線吸収分光法を用いて,電池反応中のFe3O4の鉄イオンの価数変化を調べることに成功した。
その結果,4.2 V から 0.1 V まで放電することで,Fe3O4は還元されて最終的には Fe ナノ粒子になることを突き止めた。さらにこの実験により,1.3 V 以上の電圧範囲で二次電池として機能し,1.8 V と 1.3 V の間で,その磁化(磁石としての強さ)を最大13%可逆的に変化させることに成功した。
このことは,電池反応を利用して磁石の強さを室温でコントロールできたこと(磁気スイッチング現象の観測)を意味する。
これらの発見をもとに,電磁石のように電流を流し続けることなく,室温で電気化学的に永久磁化を誘起することができれば,電磁石に取って代わる電力消費量の少ないクリーンな「電気化学磁石」の開発が期待される。