東北大,サーモスペルミン分解が生殖成長への移行に重要な役割を果たすことを発見

東北大学の研究グループは,城西大学,米国テキサス大学,ドイツ生物多様性気候研究所との共同研究により,モデル植物であるシロイヌナズナのポリアミン酸化酵素5がサーモスペルミンの分解に特異的に関与すること,さらにこの酵素を作る遺伝子が破壊されたシロイヌナズナでは栄養成長から生殖成長への移行が著しく遅れることを明らかにした(プレスリリース)。

現在,スペルミン,スペルミジン,そしてそれらの前駆体であるプトレシンが動物・植物における主要なポリアミンとして知られている。ポリアミンは生物の寿命を延ばす効果のあることが報告され,近年注目を集めている。

当初,温泉地などに生息する好熱性細菌に見つかった新種のポリアミンであるサーモスペルミンが,植物にも含まれることが判明したのは2007年。サーモスペルミンとスペルミンは構造異性体だが,植物体内での役割は大きく異なっている。

モデル植物の一つであるシロイヌナズナは,サーモスペルミン合成酵素遺伝子(ACL5)とスペルミン合成酵素遺伝子(SPMS)をそれぞれ一つもつ。それらの遺伝子機能が失われた変異体の生育を調べたところ,前者の機能を失った植物体では茎の伸長が著しく阻害された。一方,後者の機能を失った植物は野生株とほぼ同様の成長を示した。その後の研究により,サ-モスペルミンは維管束の発達に必須の役割を果たすことが明らかになっている。

ポリアミンの代謝分解は,主にポリアミン酸化酵素によってなされる。シロイヌナズナには5つのポリアミン酸化酵素遺伝子が存在する。今回,ポリアミン酸化酵素遺伝子5(AtPAO5)が機能を失った植物では,サーモスペルミン含量が野生型植物の2倍に増加し,同時に栄養成長から生殖成長への移行が著しく遅れることを明らかにした。

ポリアミン酸化酵素遺伝子5の機能を失った幼い植物は,低濃度のサーモスペルミンを含む培地上で地上部特異的な成長阻害が起こることも確認した。すなわち,サーモスペルミンの合成と分解は,厳密に制御される必要があり,いずれが機能を失った場合も植物の地上部の成長もしくは栄養成長から生殖成長への移行に支障をきたすことが明らかとなった。