日本電信電話(NTT)は,フォトニック結晶を用いた光ナノ共振器をベースとする超小型光メモリをチップ内に集積することにより,世界で初めて100ビットを超える光ランダムアクセスメモリ(RAM)を実現した(プレスリリース)。この成果により,高速な光信号を電気に変換せずに高度な情報処理を行なうことが可能となり,情報通信技術(ICT)の高速化,低消費エネルギー化が期待される。
ICTにおいてエネルギーの大半を消費しているのはルータ,データセンタなどの電気機器だが,電気信号処理のエネルギー消費と発熱は,扱う情報量が増え処理速度が速くなるほど増大する傾向があり,これが消費電力の増大を招いている。そこでこの制限を受けない光信号による情報処理を機器の中に導入することが検討されている。
高度な情報処理にはランダムアクセスメモリ(RAM)が必須だが,従来の光メモリはサイズが大きく,多数個を集積することが難しいため,RAMは光化が最も難しいデバイスの一つと考えられてきた。そこで,NTTでは2012年にフォトニック結晶と呼ばれる光を強く閉じ込める性質を持つ特殊な人工構造を用いた超小型メモリを並列方式で4ビット集積した光RAMを実現したが,多数個を集積動作させるには至っていなかった。
今回,超小型の光メモリを集積動作させるために波長多重方式を採用し,同方式に適した新しい超小型光ナノ共振器構造を開発することによって,世界で初めて100ビットを超える光RAMの集積に成功した。
これまでの光メモリは最大でも上述の4ビットどまりであり,今回の100ビットを超える光RAMの実現は本格的な大規模光RAMの実現に向けた大きな進展。また,このようなミクロンスケールの光デバイスを100個を超えるレベルで高密度に集積できたのはメモリに限らなくとも初めてのこととしており,光集積技術が,トランジスタ等の電子デバイスと同じように大規模に集積できる可能性を示すもの。
今回,高度な波長精度を有するナノ加工技術を用いて,シリコンを母材としたフォトニック結晶中に共振波長がわずかずつ異なる100個以上の光ナノ共振器を集積して作製することにより,この構成を実現した。強い光閉じ込め作用により,光は各共振器中のわずか0.1立方㎛以下の体積の領域に閉じ込められており,共振器はほぼ8㎛間隔で高密度に並べられている。その結果,最大で105個の集積光メモリが独立に動作することを確認した。
今回実現した波長多重型の直列集積方式を、空間多重型の並列集積方式と組み合わせることによって,2次元配置の集積光メモリを作製し,さらなる高ビット化を目指す。最終的にキロバイト程度の光メモリができれば,ルーティング処理等の高度なネットワーク処理へ応用することができると考えられる。また,この成果の波長多重集積技術はメモリ以外の光デバイスにも適用可能であることから,ルーティング処理以外の様々な光伝送,光処理を波長多重化して,チップサイズに集積して利用可能とする研究開発も並行して進める。
この技術はあらゆるICT機器の中で用いられているマイクロプロセッサのような小さな媒体の中の情報処理を高速化,低消費電力化することにも有効だと考えられる。近年,マイクロプロセッサはメニーコア化が急速に進んでいるため,チップ内部で大容量の通信が必要となりつつあり,将来的には内部のネットワーク処理が消費電力の大半を占めることが予想されている。
この技術は高度な光ネットワーク処理をチップ中に集積できる可能性を持つことから,チップ内のネットワーク処理を光化して,低消費電力の高性能マイクロプロセッサを実現する技術としても期待される。