国立精神・神経医療研究センターと名古屋大学の研究グループは,神経科学研究の進歩に欠かせない新世界ザルの一種である小型の「マーモセット」が,高い他者認知能力を持つことを実験によって明らかにした(プレスリリース)。体重300g前後で道具を使用せず記憶能力も劣るマーモセットにおいても,フサオマキザルと同様の社会認知能力を有することが示された。
今回の研究では,マーモセットの目の前で,二人の人物が食べ物を交換する演技を見せた。一つの実験は,お互いに食べ物をやり取りする互恵的な条件で行ない,もう一つは一方が公平な交換を拒否する非互恵的な条件で行なった。
実験に使用した4頭のマーモセットはいずれも,互恵性を示す演技を見た後では,二人の人物から同じ割合で食物を取ったが,非互恵性を示す演技の後には,非互恵的な演技者から食物を受け取ることを避ける傾向にあった。このことは,マーモセットは2つの条件(互恵条件と非互恵条件)が異なることを認識し,かつ非互恵的である人物からの申し出を避けることを示している。
非互恵的な個体の申し出を避けるという行動は,マーモセットが将来のパートナーを選ぶ際に日常生活を何気なく見ていて,相手として不適格だという判断をしていると考えられる。
小さな霊長類であるマーモセットが身体に対して大きな脳をもつヒトやフサオマキザルと同じ能力を持つという結果が得られたことは,互恵性を判断する他者認知能力が,大きな脳や長期的に個体の行動を覚えておくための優れた記憶力を必要としないことを明らかにするもの。
また,互恵性に対する能力は霊長類全体が持つものではなく,ヒト同様に他の個体に対して協力的であるという社会環境(協力する性質)で生活するフサオマキザルやマーモセットなどに共通する認知の進化によるものと考えられる。
この結果は,マーモセットが社会的知性や対人性に問題を持つ自閉症や発達障害の研究推進に道を開くものであり,学術的にも高い意義を持つと考えられる。