産総研,分子間や原子間で働く弱い凝集力を光で増強できることを予測

産業技術総合研究所(産総研)は,中国 四川大学,スペイン バスク大学と研究協力して,化学結合していない分子同士や原子同士に働く弱い凝集力を,波長(エネルギーと関連する)を調整した光の照射によって増強できることをシミュレーションにより理論的に予測した(プレスリリース)。凝集力が増強される原因は,光によりプラスとマイナスの振動する電荷が分子や原子に発生し,それらの間に電気的な引力が生じるため。

有機材料を用いたデバイス技術は,半導体を用いた技術と比較して製造コストが低くなることが期待されているが,デバイス性能向上のために高品質の分子性結晶の作成が不可欠。そのため,分子間の相互作用を制御する技術は重要な研究課題となっていた。今回予測された光による凝集力の増強現象は,こうした分子性結晶のように弱い凝集力で構成される構造体作成への応用が期待される。

今回の研究は,最も単純で化学反応性のない希ガスであるヘリウム(He)を対象にシミュレーションを行なった。He原子内の電子は,ある決まったエネルギーでのみ,その軌道を変える(すなわち励起する)。その励起エネルギーに非常に近いエネルギー(波長)を持つ光を照射するとHe原子内の電子は軌道を変えようとして振動を始め,照射を続けると電価分布の振動の振幅が少しずつ大きくなる。

これは,振動する振り子に,その振動周期と同周期の力を与え続けると,振幅が大きくなっていくことと類似している。電価分布の振動の振幅が極大になった瞬間,2個のHe原子の間にプラスとマイナスの電荷が存在し,2個のHe原子は引き合うようになる。これを双極子相互作用と呼ぶ。電価分布は,時々刻々変化しプラスとマイナスの電荷の位置が逆転する期間もあるが,常に2個のHe原子が引き合うような電荷配置が維持されるため,どの瞬間であっても双極子相互作用による引力が生じている。

今回のシミュレーションで得たHe原子2個の時間による距離の変化を解析した結果,光照射をした場合は光照射のない場合に比べて引力が7 pN増大していることがわかった。この値は,通常の化学結合で原子同士をつないでいる力の1000分の1程度の弱い力であるが、化学結合していない原子・分子同士を操作するには十分な大きさ。今回の基礎的なシミュレーション結果から,分子性結晶などにおいても光による凝集力増強の可能性が示唆された。