産総研,シリカからケイ素化学産業の基幹原料を一段階で合成することに成功

産業技術総合研究所(産総研)は,ケイ素化学産業の基幹原料の一つで,シリコーンなど,さまざまな有機ケイ素材料の原料としても有望なテトラアルコキシシランを,砂の主成分であるシリカとアルコールとの反応により,一段階で効率的に合成できる技術を開発した(プレスリリース)。

テトラアルコキシシランは,化学式の上ではシリカとアルコールとの反応で生成し,その際に水が副生する。しかし,逆の反応であるテトラアルコキシシランと水からシリカとアルコールが生成する反応の方がはるかに進行し易いため,シリカとアルコールとの反応でテトラアルコキシシランを合成することは困難だった。

今回,シリカ(純度:99.7 %以上,粒子径:75-150 µm)とメタノールとの反応に,脱水剤としてアセトンジメチルアセタールという有機物を加えると,反応温度242 ℃,反応時間24時間で,テトラメトキシシランが18 %の収率(シリカ基準)で得られることがわかった。

また,反応系に二酸化炭素を共存させ,さらに触媒として金属アルコキシドとアルカリ金属水酸化物を少量添加すると,反応が高効率化した。これは,メタノールが二酸化炭素と反応して活性化し,これがシリカとより効率的に反応するためと考えられるほか,金属アルコキシドはメタノールと二酸化炭素との反応を促進すると考えられる。一方,アルカリ金属水酸化物は,シリカの分解すなわちケイ素-酸素結合の切断を促進する働きがある。

アセトンジメチルアセタールは水と反応するとアセトンとメタノールに変化する。しかし,アセトンジメチルアセタールはアセトンから容易に再生可能であり,再び脱水剤として使用することができる。また二酸化炭素は反応促進剤として機能しているだけであり,反応で消費されないため,再利用できる。さらに今回開発した方法では,塩素化合物を使用しないため,従来の四塩化ケイ素を原料とする製造方法に比べて,製品に塩素が混入する恐れがないことも特長。

今後,有機脱水剤や触媒の構造を改良することで,反応のさらなる効率化を図ると共に,多様なケイ素源やアルコール種への適用性について検証する。さらに,有機脱水剤の再生や触媒のリサイクルについての検討も行ない,テトラアルコキシシランの現行製造法に対するコスト優位性を評価するとともに,スケールアップの検討も進めることで,数年後の実用化を目指す。

※6月16日 図を差し替えました