東工大ら,磁場中の高温超伝導現象の全貌を解明

東京工業大学と米フロリダ州立大学との日米研究チームは,これまで謎とされてきた,高温超伝導体において磁場が起こす状態変化について,絶対零度まで包括する全体像を明らかにした(プレスリリース)。

磁場を強めていくと電気抵抗ゼロの超伝導状態になる温度は低下してゆく。これまでは,超伝導になる温度が絶対零度まで低下する磁場が唯一の量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点)で,それ以上の磁場中には超伝導状態は存在しないと考えられていた。ところが,約4倍の高磁場まで,絶対零度でのみ超伝導状態になる領域が広く存在していることを実験で突き止めた。

研究チームは,ランタン-ストロンチウム-銅の酸化物からなる高温超伝導体を,4~6ケルビンという非常に低い超伝導転移温度になるように組成調整した試料を用いて実験した。18テスラ(地球がもつ磁場の約36万倍)の高磁場までと,0.09ケルビンの極低温まで環境を変化させて電気抵抗を測定することにより,高温超伝導体が示す状態変化の絶対零度までを含む全体像を観測することに成功した。

その結果,これまでの予想とは異なり,高温超伝導体は,磁場誘起の量子臨界点を2つ持つことを発見した。有限の温度から電気抵抗ゼロの超伝導状態になる低磁場領域と,絶対零度で抵抗が無限大の絶縁体状態になる高磁場領域との間に,絶対零度でのみ超伝導になる領域が広く存在していることがわかった。

従来は,1つ目の量子臨界点の磁場によって完全に超伝導状態が破壊されると考えられていたが,それよりも約4倍の高磁場まで絶対零度のもとでは超伝導状態になる領域が続いているという発見は,驚くべき結果。

様々な温度と磁場における電気抵抗率の測定結果を,抵抗率と温度について特性値を求めて規格化すると,全てのデータが2つの曲線のいずれかに重なることが分かった。このような臨界スケーリングと呼ばれる解析を行なうことにより,ある磁場中で絶対零度になった時に超伝導と絶縁体のどちらかの状態になるかが判別でき,その境界の磁場として量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点)を突き止めることもできた。

今回の発見により,高温超伝導メカニズムの理解に弾みがつくとともに,応用に関しても重要な指針が得られるものと期待される。