大阪大学基礎工学研究科・教授の北川勝浩氏らの研究グループは,試料を室温に保ったままNMR(核磁気共鳴)信号を1万倍以上に大きくすることに成功した(ニュースリリース)。
今回の成果は,レーザ光とマイクロ波を照射することで温度に関係なく核スピン偏極率を増大できる「光励起三重項状態の電子スピンを用いたDNP法(トリプレットDNP法)によるもので,化学分析に用いられるNMR分光や,医療に用いられるMRI(核磁気共鳴画像)の飛躍的な高感度化に道を拓くものとしている。
NMR分光やMRIの感度は,核スピンの向きが揃った割合を示す偏極率に比例する。偏極率は室温では通常数万分の1以下という非常に低い値だが,今回この偏極率を室温で34%まで高めることに成功。偏極率34%の核スピンは,通常のNMR分光やMRIに比べて1万倍以上強い信号を出す。
この方法は,従来の高偏極化法では必要であった極低温に頼らず,室温でNMR分光やMRIの飛躍的な高感度化を可能にすると期待されている。そのため,これまで不可能であった低温で劣化する材料や生体物質の極微量分析など材料科学や生物化学への貢献が期待されている。
また,高偏極化された物質を溶かして体内に注射し,その代謝をMRIでイメージングしてがんなどの腫瘍位置を特定するといった医療への応用の可能性もある。今回の研究で得られた室温下で大量の核スピンが高偏極化された物質は,加速された原子核や素粒子を用いた散乱実験の標的物質や磁気相転移の量子シミュレータ として用いることもできるとしている。