北海道大や理研など,ナノ結晶中の超高速構造変化をX線レーザで捉えることに成功

北海道大学とイギリス Southampton大学,理化学研究所,関西学院大学,京都大学,高輝度光科学研究センターは共同で,X線自由電子レーザ施設「SACLA」を用いて,ナノワイヤー中の超高速構造変化を原子レベルで観察することに成功した(ニュースリリース)。

これは,北海道大学電子科学研究所・助教のMarcus C. Newton氏(現・ Southampton大学講師),教授の西野吉則氏,理研放射光化学総合研究センター・ユニットリーダーの田中義人氏(現・兵庫県立大学教授・理研客員研究員)らの研究成果で,今回,二酸化バナジウムナノワイヤー中の原子レベルの超高速構造変化をポンププローブ法と,コヒーレントX線回折を組み合わせた先端的手法を用いて観察した。

具体的には,ポンプ光であるチタンサファイアレーザ(波長800nm,パルス幅30fs程度)で二酸化バナジウムナノワイヤーを刺激し,引き起こされる過度的な超高速構造変化を,プローブ光である波長0.1428nm,パルス幅10fsのX線自由電子レーザで捉えた。測定では,チタンサファイアレーザの照射からXFELの照射までの時間差(遅延時間)を変化させ,様々な遅延時間でのコヒーレントX線回折パターンをマルチポートCCD検出器を用いて計測したという。図左は実験の模式図。

遅延時間の測定間隔は2.5psで,各データ点は25発のXFEL照射を積算して得た。コヒーレントX線回折パターンの中心角は,チタンサファイアレーザを照射した直後に減少し,その後,よりゆっくりと減少した。この結果は,まずバナジウムの原子ペア間の距離が急激に広がり,その後,バナジウム原子ペアがよりゆっくりと変形したことを示唆する。また,コヒーレントX線回折パターンの中心角が,振動する様子も観察された。これはナノ結晶中を伝わるコヒーレントフォノンによるものと解釈できるとしている。

図右は,遅延時間が0秒と62.5psのコヒーレントX線回折パターンを示すものだが,この両者を比較すると,遅延時間が62.5psのコヒーレントX線回折パターンは,中心位置が低角に変位したのみではなく,パターンが縦に延びていることが分かる。これは,格子面間隔の膨張に伴い,ナノ結晶中に歪みが生じていると読み取ることができるという。

 

今回の研究成果は,XEFLを用いたポンププローブ法とコヒーレントX線回折を組み合わせた手法が,ナノ結晶中の原子レベルの超高速構造変化を観察するのに有効であることを示したもの。今後は物質中の原子レベルの歪みの3次元分布をフェムト秒の時間分解能で動画撮影することを目指し,さらに研究を進めていくとしている。