東北大学と理化学研究所らの研究グループは,帯電した絶縁体試料表面近傍で電子が次第に蓄積する様子を,電子線ホログラフィにより電場の乱れとして検出すると共に,その電子集団の移動の様子を可視化することに世界に先駆けて成功した(プレスリリース)。
電子は,マイナスの電荷と磁気モーメントを持ち,その周囲に電場と磁場(電磁場)を形成している。電磁場をナノメートルスケールで可視化できる電子線ホログラフィを用いて電子の運動を追跡できないか実験を繰り返す中,研究グループは絶縁体で複雑な形態をもつ生体試料の帯電効果を利用することで,その試料表面近傍で電子が次第に蓄積すると共に,複雑な電場の中で電子が集団的に運動する様子を電場の乱れを通して直接観察することにはじめて成功した。
電子線ホログラフィでは,電子の波動性を利用し,試料を通過した波と試料外の真空領域を通過した波を干渉させてホログラムと呼ばれる干渉縞を撮影する。この干渉縞には,試料周辺の電磁場の情報が記録されており,コンピュータを用いた位相再生処理により,電磁場の分布を可視化できる。
ここで,電子が動いている場合,この動きにより電場が乱される。ホログラムから振幅再生と呼ばれる処理をすると電場の乱れた領域を特定することができることを研究グループはこれまで見出していた。
実験ではネズミの坐骨神経の微細線維周辺で,電子線ホログラフィーの振幅再生法を駆使することにより,一旦試料から放出された2次電子が,電子線照射量の増大と共に次第に強く帯電した試料に引きつけられ,枝に囲まれ領域に徐々に蓄積し,集団的に移動する様子を捉えた。
この振幅再生像を連続撮影することにより,絶縁体試料表面近傍に電子が蓄積する様子とその電子の集団的な運動を可視化できた。今回確立した観察法を用いて,今後は様々な電子の流れの観察にも適用し,身の回りの複雑な電気現象の機構解明や先端バイスの高機能化への応用展開が期待される。