東京大学の研究グループは,水素結合系の単成分純有機伝導体を探索している途上,物質・材料研究機構(NIMS)のグループと共同で,純有機物質κ-H3(Cat- EDT-TTF)2の電子スピンが量子スピン液体状態であることを突き止めた(Cat- EDT-TTF:カテコール縮環エチレンジチオテトラチアフルバレン)。
これは,水素結合で連結されたCat-EDT-TTF分子の二量体が二次元三角格子を形成するという特異な構造をもつ単成分有機物質(プレスリリース)。
水は温度を下げると,運動エネルギーを失い,水分子が動けなくなった固体(氷)となる。同様に,磁性体中の電子のスピン(S = 1/2: 電子が持つ固有の磁気モーメント)も,通常は低温では整列しスピンの固体となる。
ところが最近の理論研究は,三角格子上のスピンは,極低温まで液体状態(量子スピン液体状態)を保つことを示唆している。ただ,実際にそのような量子スピン液体状態が本当に存在するのか,そのスピン状態はどういうものか,本質は理解されていないため,量子スピン液体物質の探索が長年行なわれていた。
発見した物質の磁化率は,温度低下とともに磁化率はおよそ20 Kで幅広い極大を持った後,約3Kから50mKという極低温領域まで磁化率が一定となる。これは,スピンか極低温まで固体とはなっていない,すなわち量子スピン液体状態が実現していることを意味している。
量子スピン液体の詳細な理解は,高温超伝導体の超伝導メカニズム研究や,新規のデータストレージや通信技術の開発において,新たな指針を提供すると期待されている。