立教大,化学分析の不要な放射性ストロンチウム非破壊検出法を開発

立教大学理学部教授の村田次郎氏を中心とする研究チームは,放射化学分析を用いる通常の方法では計測の難しい放射性ストロンチウムを,化学分析の不要な簡便な方法で計測できる,新しい計測方法の技術開発に成功した(プレスリリース)。

放射性ストロンチウムは化学的性質から放射性セシウムよりはるかに体外に排出されにくいため,内部被ばくの影響が懸念される一方で,ガンマ線をほとんど放出しない性質による計測の難しさから,原発事故に伴う環境中の汚染状況の情報が極めて乏しい状況が続いている。

この状況を打破すべく,研究チームでは,セシウム137などを大量に含む土壌中に含まれるストロンチウム90の放射能強度を,土壌の化学処理のプロセスを経ずに物理的に非破壊で計測できる,新しい測定器の開発を行なった。

ストロンチウム90は崩壊時に比較的高いエネルギーのベータ線を放出するため,これを捉えることで放射能の評価を行なう原理を用いた。ただし,純粋なストロンチウム90に対しては容易なこの計測法は,桁違いに存在量が多い放射性セシウムを大量に含む福島第一原発事故由来の放射能を含む土壌に対しては,検出器の応答が放射性セシウムの放出するガンマ線由来の信号に埋め尽くされる問題がある。

そこで,ガンマ線の寄与を実測・評価してこれを差し引き,さらにサンプル等の物質内部での散乱・吸収を考慮したエネルギー分布を用いた統計解析を行なう事で有意にストロンチウム起源の信号を捉え,シミュレーションを用いたサンプル・検出器応答の評価を経て放射能強度の定量評価を可能とした。

その結果は同じサンプルに対して行なった放射化学分析の結果と明瞭な相関を示し,放射能強度の絶対値の較正が必要であるものの,放射性ストロンチウムの濃度に比例した結果を得る能力がある事が確認された。

この技術は,感度において放射化学分析に及ばないものの,放射性ストロンチウムが大量に含まれているかどうかを確認する目的などにおいて,非常に短時間に低コスト(1サンプルあたり,放射化学は1ヶ月・10万円単位であるのに対し,この研究は1日単位・電気代程度)で貢献できる能力がある。既に,高濃度の蓄積が懸念されている野生動物の調査にも実際に応用され始めているなど,今後の災害復興計画に貢献する事が期待できる。