東京大学,京都産業大学,奈良先端科学技術大学院大学らの研究グループは世界で初めて,細胞膜に存在する,タンパク質を細胞膜に組み込む働きを担っている「膜組み込みタンパク質YidC」の立体構造を決定した。
そして,この詳細な構造情報に基づき研究を進めた結果,YidCは,疎水的な生体膜に親水的な凹みを形成するという,予想外のユニークな構造体を形成することを発見し た。さらに,細胞膜へと組み込まれるタンパク質がYidCの親水的な溝に結合することを確かめ,YidCによってタンパク質が細胞膜に組み込まれる分 子メカニズムの新しいモデルを提唱した。
すべての生物は,細胞膜で囲まれた細胞を生命の基本単位としており,細胞膜の働きについて理解を深めることは,バクテリアから人まで共通した基本的な生命 現象を理解する上で欠かせない。
細胞膜には,タンパク質を細胞膜に組み込む働きを担っている「膜組み込みタンパク質YidC」が存在し,このタンパ ク質は生命の維持に不可欠な因子。しかし,これまでの研究においてYidCの立体構造は決定されておらず,YidCによってタンパク質が細胞膜に組み 込まれる分子メカニズムは謎であった。
具体的には,細菌Bacillus halodurans由来のYidCの結晶構造を決定することに成功した。YidCの結晶化は,脂質キュービック相(LCP)法で行ない,大型放射光施設SPring-8BL32XU(ビームライン)においてX線回折データを収集した。その結果,2.4Å(0.1nm)という高分解能でYidCの構造を解明することに成功した。
こうした結果と過去の知見を組み合わせることで,「YidCが基質タンパク質のうち,細胞膜に組み込まれた後に細胞外に突出する領域と親水的な溝で相互作用 することで,この細胞外に突出する領域を細胞膜の内部に引き込み膜タンパク質を生体膜へと組み込む」という新規の分子メカニズムを提唱し,タンパク質が細胞膜に組み込まれる生命現象の解明に大きな進展が見られた。
この成果は,生体内のタンパク質の成り立ちやタンパク質輸送の基礎研究の発展に大きく貢献するもの。また,YidCが細菌の生育に必須なタンパク質で あることから,応用研究として病原菌のYidCを標的とした新規の抗生物質の開発等の基盤情報として利用されることが期待される。
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