理化学研究所(理研)は,独自に開発した表面・界面に存在する分子を選択的に計測できる最先端の分光計測法を用いて,広い分野で重要とされているホフマイスター系列の発現メカニズムについてモデル界面を用いて調べた。その結果,陽イオンのホフマイスター系列と陰イオンのホフマイスター系列の発現メカニズムが異なる可能性を示唆した。
19世紀末にホフマイスターによって報告された,タンパク質の溶解度に及ぼす塩効果の序列はホフマイスター系列として知られている。この系列は元々はタンパク質の塩析に対して発見されたものだが,酵素活性のような複雑な生体機能から界面活性剤の相変化のような単純な物性にいたるまで非常に多くの溶質の多様な物性に共通している。
そのため,ホフマイスター系列を理解することは生物物理および物理化学の広範な学問領域において非常に重要であり,世界中で研究されている。しかし,膨大な数の研究がなされてきたにもかかわらず,その分子レベルの詳細なメカニズムについてはほとんど分かっていない。
最近では,ミクロレベルではホフマイスター塩効果はタンパク質や単分子膜などの分子系とイオンが溶けた水溶液との間の界面の問題に起因すると考えられている。そのため,この現象の解明には界面の構造を分子レベルで理解することが求められていた。
研究グループは,独自に開発したヘテロダイン検出振動和周波発生分光法を用いて単分子膜/水界面の水分子の振動スペクトルの測定を行なった。その結果,正に帯電した界面における陰イオンの効果はイオンの界面への吸着力で説明できるのに対し,負に帯電した界面における陽イオンの効果は吸着力ではなく界面近くの水の水素結合強度の変化と関連があることを見いだした。
この結果は,水の科学に画期的な知見を与えると同時に,界面の水構造の知見が鍵となる生物物理などの分野にも新しい視点を与えると期待できる。
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