浜松ホトニクスと京大,世界初となるワット級高出力フォトニック結晶レーザを開発

京都大学と浜松ホトニクスらのグループは,次世代型半導体レーザ光源とも言うべき,フォトニック結晶レーザ素子の開発を進め,狭放射角(<3°)を維持したまま,光出力1.5Wというワット級の室温連続動作に世界で初めて成功した。

一般に,半導体レーザの光出力は,その光出射面積に比例して最大値が決まる。しかしながら,従来型の半導体レーザでは,光出射面積を大きくすると,励起電流の増加とともに,光出射端におけるレーザ光の波面が変形して出力ビームの形が著しく劣化し,いくら集光しても光スポットが大きくならざるを得ず,光製造には不向きとなるといった問題があった。

今回開発したデバイスは,活性層の直下に,3角形状の格子点を光の波長(λ)の周期(a=λ)で並べたフォトニック結晶を集積した構造を持つ。この構造が微小な鏡として動作し,面内の4方向に伝搬する光が反射・回折を繰り返し,フォトニック結晶面内に定在波を形成する。これにより,2次元の大面積に渡って,安定な共振作用を生み出す。

ここで発振したレーザ光は,同じくフォトニック結晶のもつ面上方への回折効果により,外部へと放出されることになり,面発光出力が得られる。今回,直角3角形の格子点構造を導入することが,レーザ発振に必要な電流を小さく保ちつつ,面発光出力を増大する上で極めて有効であることを見出した。

このデバイスでは,室温連続動作において1.5 Wというワット級の光出力を得ることに成功し,単一波長で動作していることも分かった。またビーム広がり角は1°程度で,電流値を増やすことで広がり角の増大がみられるが,それでも3°以下という極めて狭放射角の動作が得られた(光出力0.5W程度までは,M2が1.0という特に高いビーム品質が得られることも分かった)。

このレーザでは,このような狭放射角の高輝度特性を生かすことで,レンズフリーの光学系を構築出来る。フォトニック結晶レーザから出射したレーザ光を,レンズを介さずに直接紙に照射したところ,レーザ光を照射した直後に,紙の燃焼が確認された。

これは,開発した素子が高輝度であること,レンズフリーあるいは単純光学系での応用が可能となることを示すもの。この特長を活かすことで,低コストでロバストなシステムの光源として,フォトニック結晶レーザが好適となることを示している。

今後,この成果を基にしたさらなる高出力化により,現在ファイバレーザが用いられている金属の切断,溶接応用への置き換えが可能となり,さらには車体の金属加工などの広範なものづくり現場への応用展開が可能になる。

光製造分野以外にも,ディスプレイに用いられる波長変換用基本波光源,バイオ・医療・分析分野に用いられる高解像度レーザ顕微鏡等の多くの応用が考えられる。同時に,狭放射ビームを活かしたレンズフリーの応用可能性も現れ,省コスト,高安定化につながると期待される。

詳しくは浜松ホトニクス ニュースリリースへ。