理化学研究所は,既存のアルツハイマー病モデルマウスよりも,アルツハイマー病患者脳内のアミロイドの蓄積を忠実に表わす,次世代型アルツハイマー病モデルマウスの開発に成功した。
疾患研究に用いるモデル動物の作製では,通常,病気の原因となる遺伝子を同定し,その遺伝子を過剰に発現させるか,欠損させる。アルツハイマー病では,アミロイドβペプチド(Aβ)が凝集し,アミロイド斑となって脳内に過剰に蓄積することが病気の発症の引き金と考えられており,これまでにAβの前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の遺伝子変異が同定されている。
そのため,APPを非生理的に過剰に発現させたAPP過剰発現マウスが,第一世代アルツハイマー病モデルマウスとして主に使用されてきた。しかし,過剰発現したAPPの記憶障害などの非生理的な効果が強く,また脳内のアミロイドの蓄積もアルツハイマー病患者との類似性が乏しいため,ヒトのアルツハイマー病のモデルとして適切だとは言い切れなかった。
研究グループは,この問題を解決するため,遺伝子の過剰発現法を用いずに,患者でみられる遺伝子変異と正常な遺伝子を“置き換える”方法(ノックイン技法)により「APPノックインマウス」の開発に成功し,解析を行なってきた。
APPノックインマウスは,患者の脳におけるアミロイドの蓄積に忠実なだけでなく,既存モデルでしばしば発生する研究途中での突然死が起きないため,アルツハイマー病モデルとして極めて有用なモデル。
今回,開発に成功したモデルマウスは,既存のモデルに替わる世界標準となる可能性が高く,未解明のアルツハイマー病の病態メカニズムの解明から,予防・治療のための創薬や診断法の開発など,臨床応用のための研究に資する重要な研究ツールやリソース基盤になると期待できる。
詳細は理研 プレスリリース