早稲田大学人間科学学術院教授の千葉卓哉氏、長崎大学医学部教授の下川功氏らのグループは、食事制限による寿命延長、抗老化作用に関して、神経細胞で発現している神経ペプチドの一つである、ニューロペプチドY(NPY)が重要な役割を持つことを明らかにした。
これまでヒトに近い霊長類であるサルを含めて、実験動物をもちいた研究では、食事制限によってガンや生活習慣病、アルツハイマー病に似た神経疾患などの発症を抑制する、普遍的な抗老化作用が再現されてきたが、長らくその分子メカニズムの詳細は不明のままだった。
一方、20年程前から長寿に関わる遺伝子が、線虫やショウジョウバエなどの下等生物や、マウスなどの哺乳類で報告されるようになってきた。食事制限による寿命延長、抗老化作用に関わる遺伝子についても、下等生物ではいくつか報告されてきたが、哺乳類ではまだ不明な点が多く残されていた。
今回の研究では、NPYを持たない遺伝子改変マウスに対して食事制限を行なっても、活性酸素によって誘導される酸化ストレスに対する抵抗性が高まらず、結果として寿命延長が見られないことが明らかとなった。
寿命を調べたマウスの死因を解析したところ、NPYを持たないマウスでは、食事制限を行なっても腫瘍の発生頻度が高く、このことがこのマウスの寿命と関連していることが示唆された。
NPYは摂食行動を促すホルモンの一種だが、NPYを持たないマウスでは摂食行動やエネルギー代謝に明らかな異常は見られなかった。しかしながら、食事制限の寿命延長、抗老化作用には、NPYが必須の因子であることが示唆された。
これらの研究成果から、NPYの量を増やす薬などを開発することは、老化に伴って発症率が増加する様々な疾患の治療薬になると期待される。
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