KEKらが建設する,低温重力波望遠鏡KAGRAの地下トンネルが開通

高エネルギー加速器研究機構(KEK),東京大学宇宙線研究所,自然科学研究機構国立天文台などが,国内外の研究機関と共に建設を進める「地下」から宇宙を探るために,岐阜県飛騨市で掘削を行なっていた,宇宙から飛来する重力波の初検出を目指す大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」の地下トンネルが開通した。

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重力波は,アインシュタインの一般相対性理論で予言される重力が波として伝搬する現象。一般相対性理論では重力は時空間の歪みであり,その時空間の歪みがさざ波となって伝搬する。その大きさは非常に小さく,水素原子の100億分の1ほどしかない。

つい先日には,ハーバード大らのチームより,宇宙最初期のインフレーション期に生成された原始重力波を発見したとの報告がなされた。これは,宇宙マイクロ波背景放射の中に残る原始重力波の痕跡を,南極に設置された電波望遠鏡を用いて検出したというもので,他の望遠鏡でも確認されれば,宇宙物理学史上の大発見となるもの。

重力波を波動として直接検出することは,一般相対性理論の直接的な検証という意味だけでなく,電磁波では観測することの出来ない宇宙を探る新しい手段となり得る。例えば,ブラックホールや中性子星といった天体を,直接観測することが出来るようになる。

KAGRAでは,重力波により引き起こされる時空間の歪みを,一辺が3kmにもおよぶ巨大なL字型のレーザ干渉計で検出する。また,このように小さな変化を検出するためには,レーザ光が照射される鏡の機械的な振動や熱的な振動を量子効果が見えるほどまで低減させる必用がある。

KAGRAでは,地面の振動の小さな地下に望遠鏡を設置し,特殊な防振装置と極低温まで冷却された鏡を用いる事でこのような感度を達成する。地下の望遠鏡,極低温鏡の2つは,世界でKAGRAだけが持つユニークな技術。

KAGRAの建設は2010年,トンネルの掘削は2012年5月より始まり,掘削総延長距離は7,697メートル。鹿島建設のNATM工法により月間掘進距離国内最高記録359メートルを達成するなど,土木工事でも大きな成果を出した。

今後は,実験設備の整備,装置の構築を経て,2015年末に試験観測,2017年度に本格的な重力波観測を開始する予定。米国やヨーロッパでも望遠鏡がそれぞれ建設中で,これらの望遠鏡が完成した後には,お互いに協力して全天をカバーする重力波観測網が形成される。この重力波観測網により,少なくとも1年に数回の重力波観測が可能になり,新しい重力波天文学の時代が始まる。

詳しくは高エネルギー加速器研究機構ニュースへ。