物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは,主構成元素として“金”を含む新しい超伝導体SrAuSi3を合成発見した。これは,結晶構造に反転対称性の無い新物質の探索を行なった結果,合成に成功し,さらに絶対温度1.6度(摂氏 –271.55℃)の低温で超伝導を示すことを発見したもの。
これまで遷移金属元素Mとして,比較的重い,ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),白金(Pt)などを含む化合物が知られており,空間反転対称性の破れた超伝導の代表物質として盛んに研究されているが,今回,高圧合成法をを用いることで,さらに重い原子である金(Au)を含む同型の化合物を合成することに初めて成功した。
新物質(SrAuSi3)の電子構造を理論計算解析した結果,従来物質とは大きく異なることが明らかになった。さらに,伝導電子には,スピン・軌道相互作用の影響を受けているものが存在することが分かった。もし,この電子が超伝導を担っているとすれば,異常な超伝導状態が実現しているかもしれず,検証をより進めていく必要がある。
空間反転対称性の破れた超伝導において予想される性質のひとつに,上部臨界磁場(超伝導を保持できる最大の磁場の値)が極めて高くなることが上げられる。これは,クーパー対のスピンの向きがスピン・軌道相互作用によって特定方向に強く固定され,外部磁場ではその向きを容易に変えることができなくなるために起こるもの。
この優れた特長を有効に引き出すためにも,その電子状態の詳細を明らかにすることが重要。そして,今回の新物質の発見は,空間反転対称性の破れた超伝導のメカニズム解明,ひいては,磁場に強い新たな超伝導材料の開発に繋がるものとして期待される。
詳しくはNIMSプレスリリースへ。